2022年12月号
「虫歯」は、たいてい非常に強い痛みを伴いますが、あるときを境にふと痛みが消失するときがあります。朝も夜もズキズキした虫歯の痛みに悩まされてきた人は、これを嬉しく思うかもしれませんが、決して自然に治癒したわけではありません。
歯が虫歯になると一般的に初めは冷たいものがしみ、次に熱いものがしみ、さらに何もしなくても痛むようになります。この状態は「いわゆる神経(歯髄)が死んでいくときの痛み」です。歯髄が細菌感染により炎症を起こし、壊死(えし)していくときに強い痛みが生じます。これは、歯髄が炎症を起こすので「歯(し)髄炎(ずいえん)」と呼ばれます。歯髄に達した細菌感染が徐々に根の先に向かって広がり、それにともない歯髄がじわじわと死んでいきます。強い痛みは、歯髄の断末魔の悲鳴といえるでしょう。そして、歯髄が完全に死ぬと噓のように痛みが消失します。
この状態をそのままにしておくと「根尖(こんせん)性(せい)歯(し)周炎(しゅうえん)」へと進みます。根尖性歯周炎とは歯髄を犯した細菌が歯根の先(根尖)から歯根膜に感染し起こる炎症のことです。ここまで来ると歯を触ったり、叩いたりしても痛みます。さらに細菌感染が進んでいくと、細菌が体内に入り込まないように根の先で免疫細胞と細菌が戦い始めます。そして免疫細胞と細菌が戦った死がいが膿となり溜まっていきます。膿が歯槽骨を内側から圧迫しズキズキと激しい痛みが生じるのです。この根尖性歯周炎も歯髄炎と同じように、急に痛みがなくなることがあります。それは腫れていた歯ぐきが破れ膿が自然に出てしまったときなのです。膿が出てしまい圧が下がると痛みはなくなりますが、これも治ってしまったわけではありません。原因の根尖の炎症がなくなったのではないので、根っこの治療が必要です。
歯髄炎も根尖性歯周炎もそれ以上悪化しないためには治療は不可欠です。痛みのある歯を放置しておくと歯の症状は知らないうちに進行し、治療期間も長くなってしまいます。
痛みがなくてもすでに虫歯になっている場合もありますので、痛みがないときから定期的に歯医者に通って予防していくことが大切です。
次回のQは・・・・
「知覚過敏の治療、直ぐに症状がおさまらない。どうして治療に時間がかかるの?」です。
歯科助手 木下 彩
2022年11月号
歯がぶつかった方向によっては、血が出なかったり、出てもじわっとにじむ程度であったり、さまざまですが、血が出ていないから大丈夫なわけではありません。たとえば、歯に縦に力が加わり奥に食い込んでしまう「陥入」というケースでは、強く圧迫されているので血は出ないのに、歯の周りの組織に大きなダメージがある場合があります。
また痛みがない、もしくは痛みがすぐ引いてしまった場合でも時間が経つと痛みを感じるようになることがあります。家で食事をしている時に痛みが出てくるという例がよく見受けられます。
ケガで乳歯が抜けてしまった場合、永久歯に生え変わるから大丈夫だと考える親御さんもいらっしゃるのですが、そのままにせず必ず歯科医院を受診してください。歯が抜けるほどのケガというのは、相当な力が歯と歯周組織にかかっています。そのため、その隣の歯や乳歯の奥で成長している永久歯の芽にそのダメージが及んでいることが多々あります。あるデータでは、初診時に乳歯が抜けて来院された場合、70%の確率で後に生えてくる永久歯に何かしらの異常が見られました。歯周組織、顎の骨、永久歯の芽といった見えない部分へのダメージは、エックス線写真などを用いた検査が不可欠です。歯のケガの場合、時間が経つと見えてくるトラブルがたくさんあります。例えば歯の根っこは、ぶつけた時にヒビが入っていることもありますが、その亀裂がわずかな時はエックス線写真でも検出がほぼ不可能です。何日か何週間後に亀裂が広がってはじめて検出できます。ただ乳歯の歯髄は、大人の永久歯より強いので、歯髄の障害で歯の色が暗くなってもまた時間が経てばもとに戻る場合もあります。ケガ後すぐからの経過観察によりトラブルをできるだけ早く察知することが必要です。
また乳歯の奥でつくられている永久歯が、ケガのダメージによりうまくつくられなかったり変形してしまうことが稀にあります。こうしたトラブルは、数週間で分かるものもあれば、何カ月かからないと大丈夫か分からないものもあります。すべてのトラブルの芽が出尽くすのにかかる時間は約1年です。
つまり、歯をぶつけてしまったときは、すぐに受診。そしてその後1年間は経過観察のための定期受診をしましょう。
次回のQは・・・・
「歯が痛い! でも1週間そのままにしていたら痛みが引いた。もう歯医者さんに行かなくてよいですか?」です。
受付 中村りこ
2022年10月号
アライナー矯正とはお口のデータをデジタル化し、コンピューター上で設計され作成された数十個のマウスピースを連続して装着して行う新しい矯正の治療法です。アライナー矯正は、ピタリと歯を覆うマウスピースが歯をグリップしその弾力で歯を動かします。上から被せて力をかけていくので、奥歯をより奥に動かし、歯列を拡大するのが得意です。歯を並べるスペースが増えるので抜歯が必要なケースを減らすことができます。透明のプラスチックのマウスピースなので器具が目立たず、歯を抜かなくてよくなるというと、メリットしかないように思われますが、デメリットもあります。
まず、歯を回転させたり引っ張りあげたりするのが苦手なので、こうした動きが必要な場合は、一部にワイヤーやゴムなどの補助装置を使うことがあります。つぎに、歯磨きや食事の時以外毎日20~22時間装着しないといけないので、忘れやすかったり、続ける自信がなかったりする方は従来からあるつけっぱなしのワイヤー矯正がおすすめです。ちなみに、マウスピースは2、3日付け忘れると、せっかく動いた歯が元に戻ってしまいもう入らなくなってしまいます。その場合はまた新しく作り直すのですが、歯が元の位置に戻るのは速いので数か月分の努力が水の泡になることもあります。また、メリットの1つに歯を抜かなくてよくなる可能性があると述べましたが、4本の抜歯が必要でさらに過蓋咬合(かがいこうごう)(噛み合わせが深く、上の歯に隠れて下の歯が見えない嚙み合わせ)のケースでは、アライナー矯正は禁忌です。
このように、装置が透明で目立たず、取り外しができるので歯みがきもしやすいアライナー矯正ですが、毎日長時間の装着が必要であったり、歯並びによってはワイヤーやレジン(プラスチック)のアタッチメントを付ける必要があったりと、メリットばかりではありません。そして、患者さんの性格や歯並びによっても向き不向きがあります。また、治療の開始は、できれば永久歯列が完成する12歳以降が望ましいでしょう。
もし歯列矯正をお考えでしたら、ワイヤー矯正とアライナー矯正それぞれのメリットデメリットをふまえ、ご自身が適応症かどうかを矯正専門医によくご相談ください。矯正治療は治療期間が長いです。安心して治療を続け満足のいく結果を得られるように、しっかり説明を受け、納得の上治療に臨んでくださいね。
次回のQは・・・・
「子供が転んで歯をぶつけても出血や痛みがなければ大丈夫ですよね?」です。
歯科衛生士 長船瑞稀
2022年9月号
電動歯ブラシには大きく分けて3つの種類があります。1つめは高速運動型、こちらはブラシの毛先が物理的に回転したり、反転したりするものです。2つめは音波型、こちらは現在の電動歯ブラシの主流になっているもので、1分間に約3万回もの音波振動で汚れを取り除くものです。最後に超音波型です。音波型よりも高い約160万Hz以上の音波を使ってお口の中の細菌を破壊します。超音波型はほとんどブラシが振動しないため、手用の歯ブラシのように小刻みに手を動かす必要があります。
どのような人が電動歯ブラシに向いているかというと、手用歯ブラシをうまく使えない方やブラッシングのとき力が入り過ぎてしまう方、矯正治療をされている方、自分ではブラッシングができない要介助の方などです。しかしながら、特に指導を受けず初めて電動歯ブラシを使った方は歯面がすぐにツルツルになるので驚かれるかもしれません。しかし、きれいになっているのは主に虫歯のできにくい平滑面であって、隣接面や歯頚部など汚れが溜まりやすい部分ではありません。つまり、磨き残しができてしまうのです。
また、上手に電動歯ブラシを使えるのは、手用歯ブラシが上手に使える方であるという報告もあります。ですから電動歯ブラシでも歯科医院で指導を受けるのが良いでしょう。
最後に電動歯ブラシの注意点ですが、まずブラシを歯に当てる際に余分な力を加えないこと、そしてペースメーカーを入れている方は必ず主治医と相談して使用することです。最近では、余分な力を感知して自動で振動が止まるものもあるので、安心して使えますね。
これらのことに注意をして、正しいやり方でブラッシングをしてください!!
次回のQは・・・・
「矯正治療を考えています。マウスピース矯正は誰でもできますか?」です。
歯科衛生士 黒蕨 悠生
2022年8月号
仕上げ磨きはとても大事ですが、虫歯は一晩二晩歯磨きをさぼっただけでできるものではありません。「無理な時は無理せずお休みする」で大丈夫です。
お子さんの健康にとって仕上げ磨きはとても大切です。ぜひ毎日磨いてあげてください。歯科医院では大体小学校の中学年くらいまでは仕上げ磨きを推奨しています。もちろんそれ以降もやって頂いてもかまいません。ただ、お熱があるときや眠くてご機嫌が悪く、仕上げ磨きができないことも当然ながらあると思います。そういうときは無理に頑張らなくて大丈夫です。特別にお休みして、翌朝や体調が落ち着いたときにしてあげてください。
お子さんが発熱や体調不良でしんどいときはお母様、お父様だって普段より仕事が増えてしんどいはずです。無理はしなくて大丈夫です。
一日二日歯磨きを休んだからといっていきなりむし歯や歯肉炎になったりはしません。毎日の歯磨き不足やダラダラ食べなどの積み重なりによってできるものなのです。ふだん毎日ピカピカに歯磨きをしていれば一日二日のお休みは問題ありません。
もし、何もしないのは気になる!というときは次のようにしてみてください。
食事やイオン飲料を飲んだあと、麦茶を一口含ませクチュクチュウうがいをしてそのまま飲ませます。それだけでお口に残っている砂糖や酸をだいぶ減らせます。また、前歯をガーゼでぬぐうのも良いです。そのとき、もし可能であれば柄付きのフロスで歯と歯の間をお掃除してあげるのもいいですね。とくに哺乳瓶やマグを使っているお子さんの場合、油断するとイオン飲料などが前歯の周りにたまりやすいので、前歯にむし歯ができやすくなります。イオン飲料は健康食品のように思いますが、糖も酸も入っています。発熱や病気が治ってからもダラダラとイオン飲料を飲み続けるのは問題があります。
とはいえ、それまで毎日仕上げ磨きをして、フッ素が入った歯磨き粉を使い予防していたのなら、まず心配いりません。何度も言うようですが、健康な歯に一晩で穴が空いたりはしませんので、あまりプレッシャーに感じないでくださいね。
お子さんがしんどいときは無理をせずに休んで、また元気になったらしっかり仕上げ磨きをしてあげてくださいね!
次回のQは・・・・
「電動歯ブラシを使いたいのですが、どれも同じ?」です。
歯科衛生士 佐野 成美
2022年7月号
「むし歯や歯周病の原因はプラーク(歯垢)だから、力を入れてゴシゴシ磨いてプラークを落とさないと!」と、歯みがきに一生懸命になりすぎて力を入れ過ぎたみがき方になっていませんか?過剰な力での歯みがきは「オーバーブラッシング」と呼ばれ、長期間繰り返されると歯ぐきが傷ついて下がってしまいます。歯ぐきが下がると歯の根っこが露出してしまいます。そこを強い力でみがき続けると根っこの象牙質はエナメル質より柔らかいので、削れてむし歯や知覚過敏にかかりやすくなってしまうのです。歯ぐきの下には歯を支えている歯槽骨がありますが、歯ぐきが下がったからといって骨が露出することはありません。しかし歯ぐきが下がった分だけ、歯槽骨も下がって歯を支える部分が少なくなってしまいます。見かけ上は長い歯やスキッ歯になってしまうのです。
たまに歯が痛む・しみる等の症状で、むし歯や歯周病かもしれないと心配になり歯医者さんを受診される方がありますが、異常は見つからず、結局はオーバーブラッシングが原因だった…ということも珍しくありません。
歯科医院で先生や歯科衛生士に「きちんと歯みがきしてくださいね」と言われ、気合いを入れていつもよりも力強く磨いてしまったことはありませんか?まじめな人ほどオーバーブラッシングが起こりやすいのです。もちろん、磨けていないと むし歯や歯周病のリスクを高めてしまいますが、磨きすぎにもリスクがあります。一度下がってしまった歯ぐきは元に戻すことがなかなかできません。電動歯ブラシや音波ブラシを使っておられる方も、強く当てすぎないように注意が必要です。デンタルフロスや歯間ブラシも、無理な使い過ぎに注意してください。
歯科医院では歯科衛生士が歯みがき指導をします。これには歯ブラシの当て方、動かし方だけでなく、力の入り具合の指導も含まれます。はじめて指導を受けたときは「そんなにやさしくみがくんだ!」と驚かれるかもしれませんが、そんなに力を入れてみがく必要はないんですよ。
「そういえば普段ちょっとゴシゴシみがきすぎているかも…」と、オーバーブラッシングの症状に心当たりのある方は、歯のメンテナンスで来院された時にでも、担当の歯科衛生士にお気軽に相談してみてくださいね!
最近、強い力で磨くとカチッと音がしてオーバーブラッシングを警告する仕組みの歯ブラシが市販されていますが、これを使うとブラッシングの力加減が分かって良いと思います。
次回のQは・・・・
「子供がお熱で寝ている時も歯みがきしないとだめですか?」です。
受付 西村みどり
2022年6月号
年齢とともに全身的な身体機能が老化していくのと同じように、お口の機能も老化していきます。噛む、飲み込む、話すといったお口の機能もからだの筋肉と同じように加齢とともに衰えていきます。手足の大きな筋肉は、筋肉トレーニング(筋トレ、ウエイトトレーニング)をすれば鍛えられるのはわかりますが、お口の周りの小さな筋肉を鍛えるというのは少し理解しにくいかもしれませんが、鍛えることは可能です。色々なトレーニング法が考案されていますが、ここでは代表的な方法を紹介させていただきます。
1.嚥下トレーニング(のど上げ体操)
まず飲み込み方を理解しましょう。 指をのどぼとけに当てて、唾液を飲み込んでみましょう。その時のどぼとけが上に動いて、舌が口蓋に接し、息が一瞬止まり、そのあとのどぼとけは下がって元の位置にもどります。つぎからトレーニングです。
のどぼとけに指をあてます。力強く飲み込みのどぼとけが上がったままの状態で、のどのあたりを緊張させ数秒息を止めます。息をするとのどぼとけが下がります。数回この運動をすると、のどのあたりの筋肉が疲れるのがわかるはずです。このトレーニングはいつどこででもできるので、気が付いたときにすればいいでしょう。
2.パタカラ体操
パ、タ、カ、ラの発音をできるだけ速いスピードですることで唇、舌、咽喉の筋肉トレーニングになります。
①パ
上下の唇を破裂させるように発音し、5秒間続けます。表情筋、口輪筋,頬筋を鍛え食べこぼしを防ぐトレーニングになります。
②タ
舌の先を上あごにつけたりはなしたりして5秒間発音を続けます。舌の筋肉を鍛え食べ物をのどへ送り込むトレーニングです。
③カ
ノドの奥を閉じて5秒間発音し続けます。食べ物を飲み込むときまちがって気管に入らないようのどの奥を閉じるトレーニングです。
④ラ
舌の先を上の前歯の裏につけて5秒間発音します。食べ物を舌で丸める力を向上させます。
「パタカ」については後期高齢者医療歯科検診の検査項目にも入っており、5秒間で30回できるかが目安です。「カ」は若い方でもなかなか難しそうです。
この二つ以外にも、唾液腺マッサージ、あいうべ体操、舌トレーニングなどもあり,また後の回でお伝えします。
本年3月号の記事を読んで、ご自分のお口の老化に気付かれた方は是非種々のトレーニングに取り組んでいただければと思います
次回のQは・・・・
「歯みがきは、力を入れてゴシゴシ磨いた方が良いですよね?」です。
院長
2022年5月号
歯ブラシの毛先の加工には、丸くカットされたラウンド加工と、毛先を細くしたテーパー加工があります。ラウンド加工は歯の広い面や、嚙み合わせ面の効率の良いお掃除が得意ですが、へこんだ部分や細かいところのお掃除は苦手です。テーパー加工はしなやかな毛質で、狭いところや段差、へこみのあるところに毛先をとどかせることができますが、広い面の汚れを落とすのは時間がかかってしまいます。テーパー加工の場合歯周ポケットに突っ込んで磨くのは、歯ぐきがやせて歯根が露出するのでやめましょう。歯周ポケットの中の汚れを落とすのは歯ラシでは無理なのでプロの歯科衛生士にまかせましょう。
なんとなく、磨き心地で気に入った方ばかり使ってしまいがちですが、それぞれの特徴を理解し、必要に応じてフロス、歯間ブラシなどの補助道具を使うのがベストです。
しかし、歯ブラシの後にフロスや歯間ブラシを使う時間のない方や面倒臭くなりいつの間にか使わなくなった方もいらっしゃるかと思います。そこでおすすめなのが、ラウンド加工とテーパー加工の歯ブラシの2本使いです。2本使いとはいっても、毎度1回の歯磨きで2本使うわけではなく、1日の歯磨き(ここでは1日3回とします)のなかで使い分けていきます。例えば、朝の忙しい時間はラウンド加工で全体をサッと効率よくお掃除。お昼はテーパー加工で、朝に磨き残した歯と歯の間を磨きます。夜は比較的時間があると思うので、お休み前にゆっくり両方使いで丁寧に磨いてください。このように一日のトータルで考えると無理なく続けることができると思います。
プラーク(歯垢)は成熟して病的になるには約18時間かかると言われています。つまり1日1回きれいにできていれば大丈夫ということです。もちろん、フロスや歯間ブラシを使うとよりよいですが、時間がない方や、どうしても操作が難しく、習慣化できない方は、それぞれの歯ブラシの特徴を活かしたこの方法をお試しください!
次回のQは・・・・
「お口も老化するということだけど、予防はできるの?」です。
歯科衛生士 長船瑞稀
2022年4月号
砂糖は虫歯の原因菌であるミュータンス菌の餌になり、代謝され産生された酸によって歯が溶け虫歯ができます。キシリトールは、砂糖とは異なりミュータンス菌によって酸が作られない甘味料で、砂糖と同じくらいの甘さを持ちます。日ごろ摂取する砂糖をすべてキシリトールに置き換えるとよさそうなものですが、多量に取ると消化不良を起こすので、通常の食生活のなかでキシリトールを含む食品を定期的に摂取することにより、むし歯菌の数を減らす効果があるのです。
予防歯科の先進国であるフィンランドの一般家庭では、キシリトール入りのガムやタブレットなどが当たり前のように食卓にあり、食後や歯磨き後などに摂取してホームケアをしています。小さな子供は就寝前の歯磨きをしたご褒美に、甘いキシリトールタブレットをもらっているそうです。キシリトールなら寝る前に食べても虫歯の原因にはなりません。
キシリトールガムは、その甘みと咀嚼により分泌される唾液の力で汚れ(プラーク)の付着量を減らし清掃しやすくする効果があります。わたしたちも日常でキシリトールをうまく使って、ホームケアを行いましょう!
他にも虫歯の進行を防ぐものはいくつかあります。
代表的なものはフッ素です。たいていの歯磨き粉に含まれていて、フッ素イオンが歯の表面をコートし虫歯を防ぎます。フッ素イオンを長くとどまらせるために歯磨きの後のうがいは、一回ぐらいで軽く済ませましょう。
次に、リカルデントをご存知でしょうか。CMがよく流れているので知っている人も多いかもしれませんね。リカルデントはキリシトールとは違い甘味料ではありません。リン酸カルシウムが牛乳由来タンパクにより歯になじみやすい状態で含まれています。歯そのものを強く丈夫にし、むし歯の始まりである脱灰を抑える効果があります。脱灰とは歯の表面が溶かされ、ミネラルが溶けだしてしまうことです。さらに歯の再石灰化を促すため、ごく初期のむし歯なら修復してくれます。しかしリカルデントは牛乳由来の成分であるので牛乳アレルギーの方は摂取できません。
また、お茶に含まれるポリフェノールは抗菌作用がありますが、ヒトの口の中では唾液と反応してしまい抗菌作用が弱まってしまいます。そのため、汚れをつきにくくすることはできますが確実に虫歯予防ができるとは言えません。
次回のQは・・・・
「ドラッグストアでは、色々な歯ブラシが売られていますが、磨けたらどれでもいいですよね?」です。
歯科衛生士 黒蕨 悠生
2022年3月号
最近「ムセることが増えたな」「ご飯が食べにくいな」ということはありませんか?
また「咳払いが増えた」「食べ物がのどにつかえるようになった」と感じることはありませんか?当てはまるかも…という方は、ご用心。これらは年齢とともに身体機能が老化していくのと同じように、お口の機能も老化している兆候なのです。噛む、飲み込む、話すといったお口の機能はからだの筋肉と同じように加齢とともに衰えていきます。こうした変化は「口腔機能低下症」と呼ばれています。
「噛んで飲み込む」という運動は神経生理学的には非常に複雑で歯だけでなく、くちびるや頬、舌、のどまわりの筋肉が協動して行われます。舌やのどの動きが衰え、唾液が出にくくなると飲み込みが難しくなっていきます。すると栄養が十分に取れなくなり、体力が低下して病気やケガをしやすくなるので、ひいては寝たきりの原因となります。
それより怖いのがムセや窒息、誤嚥性肺炎です。お口の機能が低下するとこれらのリスクが非常に高まるのです。「ムセることは苦しいけど。そんなに怖いものなの?」と思われるかもしれません。しかし,気管に入った異物を咳をして吐き出すという行為は、心肺機能にとても負担をかけます。若いうちは何ともなくとも、お年を召したかたはときには血管が破裂してしまうくらいの負荷がかかることもあります。また少量の異物でも気管に入ってしまうと、若い時は猛烈にせき込みますが、年を取ると感覚が鈍くなりせき込みをしなくなることもあります。
まだムセることができているうちはいいのですが、吐き出す力が弱くなると窒息の危険性が高まり、即命にかかわります。誤嚥性肺炎は、食物が食道へ入らず誤って気管から肺入ってしまうなど、細菌を含んだ唾液が肺に流れ込んで引き起こす病気です。色々な原因で起こる肺炎の中でも誤嚥性肺炎は毎年多くのかたの命を奪っています。頻繁に咳払いやムセをするというのは頻繁に誤嚥しかけているということでもあるので、注意が必要です。
お口の老化は早めに気付けばその分予防もしやすいのですが、そもそもご自分のお口の機能が衰えはじめていることに気付いていない方がとても多いです。
些細な変化でも甘く見ずに早めに予防していきましょう!
その予防方法は、またのちの回で。
次回のQは・・・・
「キシリトールを取ると虫歯にならないのは本当ですか?」です。
歯科衛生士 佐野 成美
2022年2月号
フッ素洗口の方法は非常に簡単で、歯磨きの後洗口液でブクブクうがいをするだけです。フッ素は低濃度をできるだけ長時間お口の中に留めておくのが虫歯予防に効果的といわれています。
フッ素洗口は、厚生労働省がガイドラインをつくって全国の都道府県に周知しているむし歯予防の方法です。2016年のデータでは、47都道府県で1万2千の学校や施設で行われ、全国127万人の子どもたちが参加しています。実際にどれくらいの効果が上がっているかというと、静岡県島田市川根町の小学校でフッ素洗口をはじめる前(1989年)とはじめた後(2008年)とのむし歯本数の比較では、1・2年生は100%減少、1~6年生では平均95%も減少しているのです。すごい効果ですよね!実は、フッ素洗口に熱心な都道府県の子どもたちは、実際にむし歯が少ないこともわかっています。たとえば新潟県では571の保育園・幼稚園、377の小学校、94の中学校でフッ素洗口を行っているのですが(2016年調べ)、子どものむし歯が全国で一番少ないのです。そして、2位の愛知県も730の保育園・幼稚園、358の小学校で行っていますが(2016年調べ)、1人平均のむし歯本数が0.5本未満と非常に少ないです。
フッ素洗口は大人でも効果はありますが、実はブクブクうがいができるようになる4歳くらいからはじめると大変効果が高いようです。例えば、小学校から始めた場合のむし歯予防率は38.8%ですが、4歳からはじめた場合は なんと78.9%だったという研究もあるのです。また高齢者によく見られる根面う蝕の予防にも効果があります。
気になるのは「フッ素入り歯みがき剤+フッ素洗口ではフッ素を摂りすぎなのでは?」ということですが、心配はご無用です。この歯磨き+うがいでも、4歳児の適正フッ素摂取量には、まだ届かないくらいです。当院院長のおすすめは、フッ素入り歯みがき剤で歯を磨いた後、水でうがいをせず、フッ素洗口液でうがいをしてそのままという使い方です。「フッ素洗口、うちの子の通ってるとこではやってないなぁ~、残念!」という場合は、当院へお越しになられた際にでも説明を受けて、ぜひご自宅ではじめてみてくださいね!
次回のQは・・・・
「お口の老化はあまり深刻な話ではないですよね?」です。
受付助手 西村 みどり
2022年1月号
下図のように食事をすると、虫歯菌によって糖が分解され産生された酸(乳酸、酢酸、ギ酸など)の影響でプラークのpHが5.5より下がり、歯が脱灰(だっかい)(歯の表面から歯の成分のカルシウムやリンが溶けだす)されます。
その後唾液の緩衝作用や洗浄作用によってpHが5.5を上回ると歯は再石灰化(さいせっかいか)(歯の表面にカルシウムやリンが再び戻ってくる)します。
このように、食事のたびに歯の成分が溶け出しては元に戻る一連の反応が繰り返されています。簡単に言えば初期の虫歯が修復され健康な状態に戻っているわけです。
しかし脱灰が再石灰化を上回る状態が頻回に長時間続くと虫歯ができてしまうのです。虫歯の原因になる糖は砂糖(ショ糖)に限らず、普通の食事で摂取するブドウ糖やでんぷんなども含まれています。
飲食によるプラークpHの変化
その時摂取する糖分の量以上に、食べる頻度や時間が問題になるのです。だらだら長時間飲食物を口にしていたり、間食を何度も取っていたりすると歯が修復される時間がなく虫歯が進んでしまうのです。
例えばしゃべる仕事をしている方がのど飴を絶えずなめていたり、清涼飲料水をPETボトルでチビチビ飲んでいたりするとこのような状態が続いてしまいます。
話が変わりますが、コロナ禍が続いて2年になります。飲食業の方は長い休業要請で大変でした。しかし定期検診で来院された知り合いのカフェのマスターがひとついいことがあったと教えてくれました。
調理をしないので料理の味見をしなくてよくなり、また規則正しい生活を送るようになったので口の中がきれいになったそうです。味見は量的にはわずかですが、頻回行っていると先ほどの脱灰が何度も起こっていることなり、虫歯の危険性が増すのです。
また、すし職人の方は準備したシャリの味が変わっていないか、頻回に甘酸っぱいシャリを口にして味を確かめるそうです。その場合も虫歯の危険性について同じことがいえます。
歯科医院ではお口の状態を見せていただいたり、生活習慣をお聞きしたりしながら疾患の原因を探り治療を行ったり、予防を提案したりしております。どうぞ毎日のセルフケアにお役立てください。
次回のQは・・・・
「うがいで虫歯が減るってホント?」
院長
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