急増中!歯が減る、溶ける酸蝕症
◆ Q&A一覧 ◆
歯が身近な酸性の飲食物や胃液によって溶かされる疾患です。以前は「塩酸、硫酸、硝酸などを扱う工場において酸のガスやミストが直接歯に作用して、表面が溶ける」職業病ととらえられていましたが、最近一般の方の口の中にも見られるようになってきました。
1)若年者 清涼飲料水の摂取量の増加、拒食症、過食症などの摂食障害による自己誘発性嘔吐
2)健康増進のための酢、クエン酸やワインの摂取量の増加
3)高齢者 胃食道逆流症(GERD:Gastro Esophageal Reflux Disease)の増加 などが挙げられます。
う蝕は、プラーク(歯垢)の中にいる虫歯菌が、糖分(炭水化物)を栄養にして「酸」をつくり、その「酸」によって歯が溶ける病気です。飲食をすると虫歯菌によって酸が作られプラーク中のpHは急激に下がります。pHが5.5~5.7以下になると、歯の表面のエナメル質表層から歯の成分である「リン酸イオン」、「カルシウムイオン」が唾液中に溶け出してきます。これを脱灰といいます。このときは虫歯の穴はまだ開いていません。飲食終了後は唾液の働きで、下がったpHはだんだんと中性へと戻っていきます。pHが5.5~5.7以上になると溶け出ていた「リン酸イオン」「カルシウムイオン」が歯に戻り始めます。これを再石灰化といいます。飲食後下がったpHが元に戻る前に繰り返し飲食をしたり、唾液の分泌が少なくなる就寝時前に飲食をしてすぐ寝たりすると、pH が中性に戻れずに歯の成分がどんどん溶けていきます。そしてついには穴が開き、いわゆる「虫歯」ができてしまうのです。
一方酸蝕とは口の外から入ってきた「酸」や身体の中からの「酸(胃液)」によって歯が溶ける病気です。それらもpH5.5~5.7以下のものは歯の成分を溶かします。う蝕と酸蝕の違いは、う蝕は口の中で糖から作られた酸が原因であるのに対し、酸蝕はそのままの形で入ってきた酸そのものが原因となるところです。
う蝕の場合は、プラーク中で酸が作られるので、歯が解けて穴となるのはプラークの付きやすい部分(歯の溝、歯と歯が隣り合う面や歯と歯茎の境目)で起こりますが、酸蝕は酸性の飲食物が口の中全体に広がりますので、溶ける範囲が広くまた浅いため気づきにくいものです。
歯のエナメル質が溶けるpH5.5~5.7以下の酸性溶液に長時間、頻回に曝されると発症します。
外因性(体の外からくる酸)
○飲食物由来の酸(清涼飲料水、かんきつ類、酒類、酢)
○酸性の内服薬(ビタミンC,アスピリン)
○環境中の酸(職業病)
内因性(体の中からでる酸:胃液)
○反復性嘔吐 摂食障害(拒食症、過食症)
○逆流 胃食道逆流症
レモンを齧る、梅干を食べる、ビタミンCを飲む、ワインを飲むなどしたときに歯がきしんだことはありませんか。そのようなときエナメル質が溶けてスリガラス様になっているのです。しかししばらくすると、そのきしみはなくなります。それはQ3にあるように、唾液の力によって再石灰化が起こりもとどおりに修復されるからです。
歯が酸で侵されるとどうなるかの簡単な実験です。
どの溶液でもエナメル質の白濁が見られ、この中では一番pHの低いレモン果汁における変化が著しいです。またう蝕と異なり歯の溝より山の部分により強く現れています。この実験は、唾液の作用の全くない環境で行われています。実際の口の中ではこれほど強く反応は現れません。
清涼飲料水にはクエン酸かリン酸のどちらかが含まれており、クエン酸のほうが酸蝕は強く起こります。コーラは清涼飲料中1番pHが低く、砂糖の入っていないダイエットコーラでも酸性度は同じです。スポーツドリンクは風邪、発熱時によく飲まれ、健康飲料のイメージが強いのですが、多飲は酸蝕やう蝕を引き起こすことになります。
この患者さんは、来院の5年ぐらい前から、コーラ、ジュース、スポーツドリンクなどを毎日、1.5~2ℓの飲用を続けておられました。
しかし、冷たいものが歯にしみるというような自覚症状がなかったため、歯が酸に侵され、溶けているという認識をされたことは、全くありませんでした。
全体に表面のエナメル質が溶けて薄くなり、角が取れて丸みを帯びています。酸によって、ステイン(ヤニ)も溶かされているため、汚れが付いていません。中央の歯(中切歯)は、以前にプラスチックを充填されていますが、このプラスチックが歯から浮き上がったように見えます。充填された時には、この段差はなかったはずですが、周りの歯質が溶けて下がっため生じたものです。
健康に良い果物や野菜はpHが低く、大量を長期に摂取するのは歯にとってはそれほど健康的ではありません。 これらの中でレモンは特にpHが低く、注意が必要です。レモンにはビタミンCも含まれていますが、酸っぱ味のもとはほとんどがクエン酸です。レモンの古名は枸櫞(くえん)で、クエン酸の由来となっています。
この患者さんは60代の男性で
まわりがミカン畑と梅畑の農村で生まれ、20歳まで育たれました。毎日ミカンと梅干しを大量に食べておられたそうです。前歯の切端や臼歯の咬合面が黄色く見え陥凹しているのはエナメル質が溶けてしまい象牙質が露出しているからです。象牙質はエナメル質より高いpH6で溶けます。
この患者さんは20代の男性でネット情報を鵜呑みにした気の毒な例です。
レモンスライスを上唇と歯の間にはさんで、ジョギング中にホワイトニングができるときいて実行されました。
はじめは艶消しの状態になり白く見えますが、その後だんだん黄色くなってきました。これは エナメル質が完全に溶けてしまい、象牙質が露出してしまったことによるものです。またレモンのすりおろしでの歯磨きも同様に危険です。現在流行っている歯のホワイトニングは、過酸化尿素や過酸化水素が使用されており、酸を使っているのではありませんので、ご安心ください。
有機酸 | pH | ||
醸造酒 | 日本酒 ビール ワイン |
コハク酸 乳酸 リンゴ酸 クエン酸 酢酸 乳酸 酒石酸 リンゴ酸 シュウ酸 |
4.3~4.5 4.0~5.0 2.3~3.8 |
---|---|---|---|
蒸留酒 | 焼酎 ウィスキー ブランデー |
酢酸 | 4.5~6.9 |
混成酒 | チューハイ | クエン酸 リンゴ酸 | 3.0 |
もちろんアルコールで歯が溶けるのではなく、含まれている酸で歯が溶けます。
醸造酒のなかではワインのpHが一番低く、注意が必要です。蒸留酒は製造過程で加熱されることにより、揮発性の酸のみが含まれることになるので、概してpHは高い傾向にあります。チューハイは清涼飲料水に蒸留酒をいれたものようなものなのでpHは低いです。
この患者さんは、ワインを10年間 ほぼ毎日ボトル1本を2~3時間かけて飲まれていました。前歯の切端に杯状の陥凹が見られます。普通この部分はプラークが溜まりにくいので虫歯になりにくい部分です。
pH3.2のコカ・コーラライトを飲んだ時の口腔内のpHを調べた実験です。酸性溶液の歯との接触時間から考えてください。
答えは1です。次は2です。一番安全な飲み方は3のイッキ飲みです。アルコールの場合 これは急性アルコール中毒になりやすいので危険なのですが。5の場合 ストローの先が口の中にある時は、危険性は小さいのですが、前歯の表側や裏側にあるとその部分が強く酸に侵されます。
これらの中で自己誘発性嘔吐による内因性酸蝕症の危険があるのは b)と c)です。両者の違いは過食・嘔吐が見られても、痩せていれば(標準体重の85%以下。BMIで言えば17.5以下) b)「神経性無食欲症(むちゃ食い/排出型)」で、それ以上の体重がある人は c)「神経性大食症 (排出型)」と診断されます。
胃内容物が食道に逆流し、胸やけ、呑酸(口腔内の酸味)、げっぷを主症状とする疾患
通常は胃と食道の境界部は逆流しない仕組みになっているが、その弁の弛緩により胃内容物(pH3.8)が食道に逆流、停滞することにより生じます。高タンパク高脂肪食、過食、肥満に伴って発生しやすく、生活習慣病の一つと考えられています。
原因となっている疾患が治癒すれば酸蝕は止まるのですが、それまではQ11以外に以下のことにも注意してください。
早期発見・早期指導 がむし歯の場合と同様に重要です。それにはかかりつけ歯科医による慎重な観察が必要です。
基本的には象牙質まで露出していると治療が必要となります。
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