2023年6月号
フッ素を過剰に摂取した場合、いくつかの副作用が現れることがあります。一度に多量を摂取した場合の急性中毒では、下痢や嘔吐、悪心などの症状がでます。少量を長期に摂取した場合の慢性中毒では「歯のフッ素症」という特徴的な症状が現れます。これは、歯が形成される時期に、高濃度のフッ素の継続的な摂取によって生じる症状で歯の色や形に異常が認められるようになります。
フッ素は人工的に作られた物質ではなく、ほとんどの食物に含まれる栄養素なので塩分などと同じように、過剰に摂取すると問題を引き起こします。フッ素の適正な摂取量は体重1kgあたり1日0.05から0.1mgとされているので、3~5歳の平均体重では1日0.8から1.6mgとなります。それくらいの年齢のお子さんの1回の歯磨きで使用するペーストの量は5mmくらいですので、食物からの摂取量と1日2回分のペーストを全部食べたとしても問題のない量です。
ご存知のようにフッ素は、虫歯予防の方法でも科学的根拠(エヴィデンス)があると認められており、フッ素配合の歯磨き剤の使用はとても重要な虫歯予防法の一つです。歯が生えたての乳幼児から高齢者まで一生を通じて使用することが大切です。
2歳までのお子さんは、ペーストのフッ素の濃度が1000ppmまで、使用量は1~2mm程度の少量で、使用後ティッシュで拭ってあげてもいいです。
3~5歳のお子さんは、フッ素濃度は1000ppmまで、使用量は5mm程度、就寝前が効果的です。使用後、可能な限り吐出します。直後にすすぐ場合はフッ素の効果をおとさないよう少量の水(大さじスプーン1杯程度)で1回のみにします。
6歳から成人・高齢者の方は、フッ素濃度は1500ppm、使用量は1.5~2cm程度で就寝前が効果的です。使用後は同じく可能な限り吐出します。直後にすすぐ場合はフッ素の効果をおとさないよう少量の水(大さじスプーン1杯程度)で1回のみにします。
市販の歯磨き剤のラベルにもフッ素濃度がきちんと表記されているものがあるので、確認して購入されることをお勧めします。
そして、お子さんが歯磨き剤をこっそり舐めているのは大きな問題です。子どもの手の届かない場所に保管しましょう。また、お子さん自身の歯磨きは、歯磨き剤なしの空磨きをし、大人が仕上げ磨きをするときに、適切な量の歯磨き剤を使用するようにしましょう。
次回のQは・・・・
永久歯の先天欠如と言われました。すぐに治療が必要ですか?
歯科衛生士 西迫 典子
2023年5月号
最近ドラックストアなどでは色々な歯ブラシが並んでいます。種類がたくさんあり、どの歯ブラシが自分に合うものなのか、迷われる方も多いのではないでしょうか。
色々な種類がある歯ブラシの毛先加工は、大きく分けるとテーパー加工されたものとラウンド加工されたものの2つに分けられます。テーパー加工、ラウンド加工のそれぞれの特徴をご紹介します。
まず、テーパー加工の特徴は、しなやかな毛質で毛の先端が細くなっています。ラウンド加工されたものでは届きにくい狭いところや段差、へこみのあるところに毛先が届きやすくプラークが溜まりやすいところに向いています。歯にモノが挟まって気持ち悪い時のお手入れにもピッタリです。磨くときの注意点として「毛先を歯周ポケットに無理やり突っ込んで磨かない」ということです。歯茎が痩せ、歯根が露出し知覚過敏の原因になってしまうからです。歯周ポケット内に届いても1mm程度です。それより深い部分は歯科衛生士の仕事になります。そして次に、ラウンド加工の特徴は、丸くカットされた毛先であり、優しく安全にお掃除できます。歯の広い面や、噛み合わせ面(咬合面)の効率のよいお掃除ができるのが得意です。しかし、テーパー加工とは違い、へこんでいる場所や細かなところのお掃除には向いていません。
以上2つの歯ブラシの毛先加工の特徴をご紹介しましたが、皆さんはどちらのタイプの歯ブラシをお使いでしょうか。気に入った歯ブラシがあるとそればかり使いたくなると思いますが、実はテーパー加工された歯ブラシとラウンド加工された歯ブラシの両方とも使うことが理想です。フロスや歯間ブラシがどうしても苦手な方には特におすすめです。
しかし、歯磨きは毎日するものであり、朝昼晩毎回2種類の歯ブラシを使うのは面倒に思われることでしょう。そこで歯磨きを1日トータルで考えます。朝の忙しい時間はラウンド加工の歯ブラシでザックリと歯面全体を磨き爽快なお口で1日のスタートを切りましょう。昼は仕事や授業の合間にササっと食事をすませる方が多いのではないでしょうか。テーパー加工の歯ブラシで歯間をお掃除しましょう。そして1番大事なのが夜の歯磨きです。夜は就寝前のリラックスタイムにテーパー加工されたものとラウンド加工されたもの両方使い、丁寧な歯みがきをしましょう。
こうして歯磨きを1日トータルで考え、歯ブラシを使い分ける方法をぜひ皆さん試してみてはいかがでしょうか。
次回のQは・・・・
子どもがフッ素入りの甘い歯磨き剤をこっそり舐めていたんですが、フッ素の取り過ぎは体によくないですよね?
歯科助手 木下 彩
2023年4月号
顎の大きさに対し、歯が大きいと歯並びが悪くなることがありますが、それ以外にも舌や唇の力のバランスも影響します。歯は顎の骨に植わっいるので、基本的にはその形に歯が並びますが、まわりの頬、舌、唇などの筋肉に押され、それらの力のつりあった位置に歯は落ち着きます。それぞれの筋肉の出す力は強くありませんが、長時間力がかかっていると歯は動いてしまうのです。前歯は、唇と舌との間に位置するので、両方から加わる力によっては、前にも後ろにも動きます。例えば舌の力が強く、唇の力が弱い場合、舌が前方に前歯を押しやってしまうので次第に歯が動いていき出っ歯になってしまいます。お口をぽかんと開けていたり、くちびるを噛む癖があったり、日常の些細な癖が歯並びを悪くさせる原因になるのです。これから矯正で出っ歯を治そうと考えられている方で、舌の力が強く歯を押す癖があると、思っているほどスムーズに治療が進まなかったり、治療後に以前の歯並びに戻ってしまったりする可能性があります。
この日常的に繰り返してしまう舌の癖をとるためには、舌のトレーニングが効果的です。MFT(口腔筋機能療法)とよばれ矯正治療の際に一緒に行われることも多く、舌の悪い癖をとり、スムーズに矯正治療を進めていくのに大事になってきます。舌のトレーニングには舌の筋力を鍛えるものや、舌の正しい位置を知るための訓練などあり、矯正の装置を装着する前に行うこともあれば、装置の装着と一緒に行うこともあります。因みに安静時の舌の位置は上顎の天井につき,舌先は上の前歯の根元に触れるか触れないくらいです。
トレーニングは、慣れない動きをしていただくので、舌が疲れてしまいますし、繰り返し続けていく必要があるので根気が必要ですが、続けることできれいな歯並びに近づいていきます。また、お子さんの場合は、子どもの頃にお口まわりの筋力のバランスを良くしておくと、あごの骨格の成長に良い影響を与えてくれるので、矯正の先生にすすめられたら、根気強く続けていきましょう。
次回のQは・・・・
歯ブラシの毛先はテーパ加工されたものか、ラウンド加工されているもの、実際どちらがいいのでしょうか?
受付 中村りこ
2023年3月号
歯にかかる過剰な力は、歯を傷めてしまう原因になります。それは大きく2つに分けられ、その一つが歯ぎしりです。食事では上下の歯が当たったら口が開くわけですが、歯ぎしりでは当たってそこから噛みだすわけです。歯ぎしりは無意識に行うものですから、力の加減が効かず大変強い力が持続的に歯にかかります。もうひとつは、TCHと呼ばれる「上下の歯を無意識に接触させる癖」です。食事のときや重いものを持つときなど一時的に上下の歯が当たるとき以外、歯は本来離れているものなのです。安静時、唇は閉じて、上下の歯は離れているのが顎の安定した良いポジションです。TCHは弱い力ですが、日中、長時間力がかかり続けるため歯を傷めるだけでなく、顎の筋肉や顎関節にも負担になります。
では、歯に過剰な力がかかると何が起きるのでしょうか。
まずは、歯がすり減り、ひびが入り、さらに歯の根っこが割れることがあります。噛む力に耐えられなくなった歯は根っこが縦に割れてしまいます。神経のある歯では起こりにくいですが、神経をとる治療をした歯は脆くなり、歯根破折のリスクが高くなります。根っこの割れてしまった歯はほとんどの場合抜歯となります。抜歯の原因として、歯根破折は、虫歯、歯周病に次いで多いのです。また歯周病によって障害を受けた歯周組織に過剰な力が加わると骨の破壊がさらに進み、歯周病が悪化してしまいます。
次に被せ物が壊れやすくなります。せっかく治療をして入れた被せ物、中には自費治療でセラミックを入れた方もいらっしゃるでしょう。しっかり歯みがきをして清潔にしていても、歯ぎしりやTCHの癖で被せ物が欠けたり外れやすくなったりしてしまうのです。
過剰な力を減らすには、自身の癖を認識し、「力のコントロール」をしていくことが大切です。日中のTCHなら、歯が接触していると気付いたときに離すことで改善していけます。
夜間の歯ぎしりを完全に止めてしまう方法は現在ありませんが、歯ぎしりをする方は質の良い睡眠を取ること、夜間にマウスピースを装着することで少しでも歯にかかる負担を軽減できます。かかりつけの医院に定期的に通うことで、自分では気づかなかった歯ぎしりや嚙みしめの癖をいち早く発見し、将来歯を失うリスクを減らし、大切な歯を守っていきましょう。
次回のQは・・・・
「出っ歯になる理由に舌やくちびるが関係しているってホント?」です。
歯科衛生士 長船瑞稀
2023年2月号
昨年6月号当コラムでお伝えしましたが、年齢とともに全身的な身体機能が老化していくのと同じように、お口の機能も老化していきます。噛む、飲み込む、話すといったお口の機能もからだの筋肉と同じように加齢とともに衰えていきます。特に最近はご高齢の患者さんを診る機会が増え、処置中にむせる方を多く見かけます。手足の大きな筋肉は、筋肉トレーニング(筋トレ、ウエイトトレーニング)をすれば鍛えられるのはわかりますが、お口の周りの小さな筋肉を鍛えるというのは少し理解しにくいかもしれませんが、鍛えることは可能です。前回ご紹介しましたように色々なトレーニング法が考案されていますが、今回はまた別の方法をお知らせします。
一人暮らしで一日誰ともしゃべらない方などは、強制的に口やのどの周りを動かす前回、今回のようなトレーニングをして筋肉を鍛える必要があると思います。
昨年3月号の記事を読んで、ご自分のお口の老化に気付かれた方は是非種々のトレーニングに取り組んでいただければと思います
次回のQは・・・・
「家族に歯ぎしりをしていると言われました。痛いところもないし問題ないですよね?」です。
院長
2023年1月号
知覚過敏とは以下のような状態をいいます。本来歯の表面は神経(歯髄)と直接繋がっていない
エナメル質で覆われているので痛みは感じませんが、その下にある象牙質には歯髄の神経と間接的に繋がっている構造になっているので、温度変化や機械的な刺激で痛みを感じます。
色々な原因で象牙質が露出すると知覚過敏を起こすようになります。
知覚過敏になりやすい人には、以下の傾向があります。
このように色々な原因があるので、根本的に治療をしようとすると時間がかかるのです。
最近はTVCMでも「知覚過敏」という単語をよく耳にするようになりました。30~40年前はそれほどポピュラーではありませんでした。上記の原因の中で歯ぎしりや食いしばりはストレスが原因といわれますので、ストレス社会になったため知覚過敏が増えてきたのではないかというのはうなづけます。また日本人は昔より確実に歯をよく磨くようになっているので、間違った磨き方を続けてしまうと知覚過敏が起きてしまうのです。
治療はまず刺激に対する歯髄(神経)の反応を抑える薬剤を、象牙質が露出している場所に数回塗布します。様子を診て症状が改善しないなら、コーティング剤を塗布して、露出した象牙質を封鎖します。それでも症状が緩和されない場合は、歯根を歯茎で覆う歯周外科手術や強く噛んでいる歯の噛み合わせを調整する、また、神経を抜く「抜髄」もありますが、歯の寿命を損ないますのでどうしても治らないときの最終手段として行います。
また歯磨きの習慣や食生活は意識すれば改善が可能です。歯ぎしりや食いしばりの癖があるかどうかは歯科で診てもらうことでわかります。必要に応じてナイトガードを使用していただくと、就寝中の歯へのダメージが軽減されます。日常的に手軽に取り入れやすい事として、知覚過敏を抑える成分(高濃度フッ素と硝酸カリウム)の入っている歯磨き剤の使用もお勧めです。
しかしながら、一旦知覚過敏が収まっていても悪習慣がもどると、また再発することはよくあります。
次回のQは・・・・
「お口も老化するということだけど、予防はできるの?」です。
歯科衛生士 西迫 典子
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