2018年12月号
地震や台風などの自然災害は毎年全国各地で起こっています。
非常食や水、非常時の持ち出し袋を用意している方も多いかと思いますが、皆さん、歯ブラシはご用意されていますか?
支援活動に参加された先生方によりますと、避難生活で特に多いお口のトラブルは、口内炎や歯茎の腫れなどの粘膜疾患だそうです。水が限られているので水分が足りない、歯磨きもしづらい、ストレスや栄養の偏りなどが原因としてあげられます。
また、周囲の目を気にして入れ歯を外して洗うのをためらう方もいます。置いておく場所もありませんから、ずっとつけっぱなしになり、口腔内も不潔になります。また、避難所での食事は炭水化物が多いため、べたべたとプラークが歯に付着しやすくなります。さらに、災害関連死の中では呼吸器疾患が一番多く、不潔な口腔内で繁殖した細菌による誤嚥性肺炎にも注意が必要です。
被災生活では歯やお口のことはどうしても後まわしになりがちです。でも、お口の健康は災害時こそ全身の健康に直結しますので、決して軽視してはいけません。
非常時持ち出し袋の中に是非次のようなオーラルケアグッズも入れていただきたいです。
・歯ブラシ 歯ブラシを備蓄している避難所は多くありません。お口に合った普段使いのものを入れておきましょう。 ・歯間ブラシ、フロス 歯間ブラシは自分の歯の隙間に合ったサイズであることが不可欠です。歯間ブラシと同じようにフロスも避難所には支援物資として届きづらいものです。 ・液体ハミガキ 液体タイプの歯磨き剤があると、使用する水が節水できます。刺激の少ないノンアルコールのものがオススメです。 ・口腔ケア用ウェットティッシュ うがいをする水がない時にも手軽にお口をきれいにできます。
普段入れ歯を使用している方は
・入れ歯ケース&入れ歯用ブラシ
入れ歯は乾燥すると劣化しますし、ティッシュなどにくるんで置いておくと、ゴミと間違えて捨てられてしまうことも。入れ歯洗浄シートも市販されています。
・Etak(歯科医院専売品)
入れ歯にスプレーし、乾燥させてから使用します。抗菌作用が24時間持続し、菌によるニオイ、ヌメリを抑えます。
歯ブラシがない場合、水が少ない場合の磨き方は「歯科 ウソ&ホント」シリーズその53をご覧ください。
次回のQは・・・・
「親知らずは痛みがなくても抜かなきゃいけないの?」です。
<歯科衛生士 小川綾加>
2018年11月号
抜けた歯が少数ですとブリッジにするケースが多く、固定式で元の歯と同じような形ですので、装着したその時からほとんど違和感なく使用できます。
しかし概ね多数歯の欠損の場合は取り外し式の入れ歯となります。入れ歯は硬いプラスティックや金属の土台が柔らかい歯茎の上にのり、残った歯にバネがかかる構造になっており、ご自分で取り外し、お手入れもしていただかなければなりません。そのため使い慣れるまでには少し努力が必要です。
まずは、付け外しの練習です。付け外しは慣れるまで大変かもしれませんが鏡を見ながら練習していただくといいかと思います。また、出来上がった入れ歯は使っていただきながら、細かな調整を行っていく必要があります。この微調整は入れ歯がお口になじむためにとても大事なので続けて通院してくださいね。さらに入れ歯を使う際に慣れていただきたいのが、お手入れです。入れ歯は自分の歯と同じように汚れます。ベタベタの歯垢がつきますので、清潔を保つためには毎日のお手入れが必須なのです。食後、できれば義歯用歯ブラシを使い、流水下でしっかり磨くようにしてくださいね。
入れ歯を使い慣れると次のようないいことがあります。
第一によく噛めるようになります。健康や食を楽しみながらの生活にとても重要です。そして、入れ歯を使うと喋りやすくなったり、見た目が良くなったりします。歯を失うと空気が漏れて発音しづらくなります。とくにサ行やタ行に影響しやすく、滑舌も悪くなってしまうことがありますが、入れ歯を使うことにより明瞭さを回復することができます。見た目が良くなるというのは、入れ歯は失った歯だけでなく、歯ぐきの部分も補い、頬をふっくらとさせるのでお口の周りのシワを減らす効果も期待できます。
その他、お口の中において、入れ歯はとても大事な役割を果たしています。
歯がないまま放っておくと周囲の歯はその空いたスペースに向かって自然と動くため、隣の歯が倒れたり、本来なら噛み合うはずの歯が噛み合わなくなってしまったりすることもあります。歯の本数が減ると噛む力が残った歯に集中し、加わる負担が大きくなりますが、その負担も入れ歯を使うことにより軽減され、残った歯を守ることができます。
次回のQは・・・・
「非常時持ち出し袋には歯ブラシも入れておくべきですか?」です。
<歯科衛生士 佐野 成美>
2018年10月号
歯磨き剤には、酸で溶けた歯をより速く修復(再石灰化)してくれ、さらに元の歯より硬くしてくれるフッ素や、細菌の繁殖を抑える殺菌剤など、とても重要な有効成分が入っています。
皆様方の中には、「歯磨き剤に含まれる研磨剤で歯が削れてしまうのではないか?」と懸念される方がおられるかもしれませんが、市販の歯磨き剤なら、よほど強いやにとり効果のある製品でもない限り、歯よりも軟らかい高品質の研磨剤が入っており、歯を摩耗させることはありません。一方全く歯磨き剤を使用しないと、タバコを吸っていなくても茶渋のような汚れは付着することがあります。研磨剤には歯垢を落としやすくする効果があるので、こういった汚れにも歯磨き剤を使った方が圧倒的に有利です。それでも研磨剤が気になる方は、一般的なペースト型よりも研磨効果がマイルドなジェル型がおすすめです。
そして、現在市場に出回っている歯磨き剤の90%以上に配合されているフッ素のむし歯予防効果は、歯ブラシで歯面をこするだけよりもむしろ信頼性が高いと世界中で認められています。
そんなにいい成分が入っているなら歯磨き剤をたっぷり歯ブラシにのせよう!と考えてしまいがちですが、 あまり量が多すぎると、お口の中が泡だらけになって長時間磨けなかったり、爽快感だけで磨けていないのに磨けた気分になったりして、肝心のブラッシングが疎かになってしまいます。歯磨き剤は歯ブラシの毛束の長さの半分くらいが適量です。
厚生労働省の調査によると、日本人の約95%の方が毎日歯磨きを行っていて、また約7割の方が1日に2回以上磨いているそうです。しかし、毎日全ての歯を完璧に磨くのはとても難しいので、歯磨き剤を上手く活用して虫歯や歯周病を予防し、健康な歯を維持していきましょう。
次回のQは・・・・
「初めて部分入れ歯を作ったけど慣れなくて使っていません。使った方がいいですかね?」です。
<歯科助手 福永沙織>
2018年9月号
日本人の二人に一人はがんになる時代になっています。もちろん死因の一位は断トツでがんです。しかしさまざまな検査による早期発見、治療法の目覚ましい進歩により、がんは「治る病気」になってきています。その一方副作用や合併症に悩む患者さんも増えています。さらにそれらにより体力が回復せず、治療の継続が難しくなってしまうことも少なくありません。
ここ数年がんの手術、抗がん剤、放射線治療などの前後に歯科を受診し口腔ケアを受けることにより、副作用や合併症を抑えることができ、入院日数の短縮にもつながっています。それを周術期口腔機能管理と呼び、健康保険が適応されます。
たとえばがんの手術は多くの場合全身麻酔で気管に管を挿入しておこなわれますが、その際、歯周病でグラグラの歯を痛めたり,抜けてしまうこともありえます。その場合、手術前に歯を固定したり、残せないときは抜歯をしたりする必要があります。また口腔内のばい菌が管によって肺に押し込まれてしまい誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を引き起こすこともあります。手術後は口腔内の清掃がおろそかになりがちで、未治療の虫歯や歯周病が悪化し食事にさしつかえ、体力の回復が遅れたりすることもあります。そのため手術前に歯科を受診し、歯磨き指導やクリーニングを行い、お口のなかを徹底して清潔にします。また急性の炎症のある場合は応急処置を行います。
当院でも定期的に健診を受けている患者さんが、がんになられ医科から口腔機能管理を依頼されるケースが最近増えてきました。たえず口の中をきれいにして歯周病や虫歯をコントロールされている方は、普段通りで特に何もする必要がない方がほとんどです。まったく歯科にかかったことがなく歯周病や虫歯が放置されている方は、お口の管理が手術に間に合わないこともあります。ただ1回歯石をとっただけで口の中がきれいになるわけではありません。口の中のばい菌を減らすには、正しいブラッシングを身につけなければなりませんし、歯石をとってもブラッシングを怠ればすぐに口の中は元の汚い状態に戻ります。
二人に一人はがんになるのですから、いざというときのため、常日頃からお口の中をきれいにしておきましょう。
次回のQは・・・・
「丁寧に磨いていれば、歯磨き剤は特に使わなくてもいいですよね?」です。
<院長>
2018年8月号
現在、糖尿病を患っている方は950万人+予備軍が1100万人いらっしゃるといわれています。血栓症・動脈硬化・腎不全などの合併症が起きるきっかけとなる病気ですが、歯科治療にも次のような多くの影響を及ぼします
1.歯周病になりやすく、治りにくい
2.外科手術や抜歯後の傷が治りにくく、感染しやすい
3.さらに血液サラサラの薬(抗凝固剤、抗血小板薬)を飲んでいると、出血が収まりにくい
4.低血糖発作を起こすことがある などです。
歯科医師が、患者さんの健康状態をきちんと把握した上で常に安全に治療を行うためには、患者様ご自身にも歯科治療前に、下記の点にご注意いただく必要があります。
① 食事はいつもどおりにとる
→糖尿病の薬を飲んだのに食事を抜いて来院されますと、低血糖発作の原因になるため危険です。
② 休薬をしない
→普段服用しているお薬は、ご自身の判断による休薬は絶対にしないでください。血糖値が不安定になり大変危険です。
③ 服用中のお薬は必ず歯科医師にご申告を
→歯科で処方するロキソニン(痛み止め)が、糖尿病の飲み薬であるスルホニル尿素薬の働きを阻害する場合があります。ロキソニン以外の痛み止めを処方する必要がありますので、お薬手帳をご提示ください。
糖尿病患者の方の口腔内はとても敏感で感染しやすい状態にあります。外科治療後の消毒で何度も通院するのは億劫に感じられるかと思いますが、清潔な状態を保たなければ傷がなかなか治らないどころか、治療前よりも口腔状態が悪化してしまう可能性があります。
十分な経過観察のため通院回数が多くなる場合や、長期的な歯周病治療が必要となる場合もありますが、ご自身のお口と全身の健康管理のためご理解いただければと思います。
次回のQは・・・・
「胃がんの手術の前に歯科を紹介されたけど、本当に行かなきゃいけないの?」です。
<受付 和田彩子>
2018年7月号
インプラントはチタンやセラミックスなどでできた人工の歯だから「もうこれで虫歯にも歯周病にもならない」と思っている方もおられるかもしれません。たしかにインプラントに虫歯ができることは絶対にありません。
しかし、きっちりとしたお手入れをしないと歯周病とそっくりな「インプラント周囲炎」という病気になってしまうことがあります。軽度な場合は「インプラント周囲粘膜炎」と呼ばれ周囲の粘膜のみに炎症はとどまりますが、インプラント周囲炎になるとインプラントを支えるあごの骨にまで炎症がおよび、インプラントと骨との結合が破壊され、治癒は困難になります。
これらは歯周病と原因が同じで、インプラントの周囲に歯垢がたまり、その中の歯周病菌によって引き起こされます。インプラント周囲の粘膜とインプラントとの引っ付き具合は、普通の歯のそれよりも弱いので、より歯周病にかかりやすいのです。ですからインプラント治療をされた方は、今まで以上にきれいに歯のお手入れをする必要があります。インプラント周囲炎が悪化すると、時間も治療費もかけてせっかく入れたインプラントが抜け落ちてしまう、という最悪の結果になりかねません。
ところで普通の歯は歯根膜にセンサーが存在し噛む力を感じることができますが、インプラントは骨と直接結合しているので噛む力の加減ができず、つい強い力で噛んでしまいます。もしも噛み合わせが悪くなっている場合は、被せの欠けやゆるみに繋がりやすいので、噛み合わせのチェックも大切です。
インプラント治療は、入れたら終わりではありません。快適に使い続けるには、むしろ入れてからのお手入れが重要で、長持ちするかどうかは日頃のお手入れにかかっているといっても過言ではありません。
インプラント治療後も定期的にメインテナンスを受けて、検診とクリーニングで良い状態を長持ちさせましょう。
次回のQは・・・・
「糖尿病の薬を飲んでいますが、歯科の先生に申告する必要はないですよね?」です。
<歯科衛生士 小川綾加>
2018年6月号
4人に1人という数字は驚きですよね。酸蝕症とは、歯に胃酸や酸性の飲食物が"繰り返し触れる"ことで起きる歯が溶ける病気です。虫歯や歯周病に続く第3の歯科疾患として注目されています。ではなぜ今、酸蝕症の方が増えてきたのか。それは現代におけるいくつかの事情が背景に見られます。
まずは日常食の変化です。
・少し前までは穏やかな酸性度の調味料で味付けした食事だったのが、今はレモン、酢、トマトなどを使い酸味を加えたメニューが増えています。
・季節ものだった柑橘類が1年中手に入るようになりました。
・お酒も果汁たっぷりのチューハイ、ワインが大人気ですね。
・おやつは炭酸飲料や柑橘ジュースがどこでも手に入ります。
このように私たちの歯が強い酸性飲食物と出会う機会はとても多くなっています。
もう1つ注目すべきは、健康志向です。柑橘系果物を毎日欠かさず食べ、飲酢する方が増えました。意識の高い人ほど熱心に続けるため、酸蝕症のリスクが増大します。
健康のためにレモンをかじったり、酢の原液を飲んだり、いずれも一気に食べたり飲んだりするとむせるので時間をかけてチビチビかじったり飲んだりすると思います。そうすると長い時間、酸が歯に触れることになるので酸蝕症になる可能性も増えていってしまうのです。
もしこうした健康法をどうしても続ける必要があるのなら、カプセル入りの酢に代えたり、歯になるべく触れないようにストローで飲んだり、飲んだ後に水を一口飲むなど、何か歯をいたわる方策を立てる必要があります。唾液には酸を洗い流し中和して歯を守ってくれる能力があります。
しかし、その能力にも限界があります。強い酸が口の中に繰り返し入ってくると唾液の作用が追いつかなくなるので、唾液が守ってくれる程度の酸の摂取量に抑えて、体だけでなく歯の健康にも気を配りましょう。
また現在胃酸の口への逆流(逆流性食道炎)も約10人に1人と罹患率の上昇がみられます。胃酸は飲食物よ り酸性度が高く重篤な酸蝕症の原因になります。消化器内科で早期に治療を受け、歯科でも酸蝕症の有無を診てもらい、大切な歯を守っていきましょう。
次回のQは・・・・
「インプラントは虫歯にならないけど、定期的に歯科医院に行った方がいいの?」です。
<歯科衛生士 佐野 成美>
本年6月1日より医療広告ガイドラインが改定され、合言葉による物品の割引は禁止されました。
あしからずご了承ください。
2018年5月号
妊娠すると、「今までと同じように磨いているのに歯茎から出血する」「口の中がネバネバする」「歯垢が溜まりやすい」など、口腔内の変化を感じる妊婦さんが多くいらっしゃいます。
なぜこのような変化が起きるのでしょうか?それは妊娠により女性ホルモンの分泌が急激に増加し、歯周病菌が増殖しやすくなるからです。また、血管の壁がゆるくなって炎症性物質がもれやすく出血も起きやすくなります。その結果、歯肉炎が生じやすくなります。この妊娠性歯肉炎は妊婦さんの30%〜70%が発症しています。また唾液の粘り気が増すため、口腔内の自浄作用が低下し、歯垢がつきやすいと感じたり、お口のネバつきを感じたりします。
とはいっても、お口の中のことだし妊娠にまで影響あるの?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、進行した歯周病が早産・低出生体重児出産のリスクを高めるといわれています。
歯周病菌が血流にのって子宮に達すると、子宮内に炎症が起きて胎児の発育不良が生じるリスクが高まり、また歯周組織の炎症により産生された炎症性物質が子宮の収縮を誘発することが、早産のリスクになるとも考えられています。
プロの口腔ケアや必要であれば歯科治療をうけていただき、お口の健康を維持することが、安全に元気な赤ちゃんを産むことにつながりますので、比較的体調が安定した妊娠中期に歯科検診を受けていただくことをお勧めしています。
ご自宅での口腔ケアも大切ですが、妊娠初期は特につわりがしんどく、時間をかけての歯磨きは難しいですよね。歯磨きは食後と決めずに、体調がいい時になさって構いません。歯ブラシはヘッドが小さいものを選び、下を向いて歯ブラシが舌にあたらないように磨くと嘔吐反射が減り楽に磨くことができます。お口のネバつきが気になるときは、デンタルリンス(洗口液)もお勧めです。
ご自身に合った口腔ケアで、楽しい妊婦ライフを過ごしてくださいね。
次回のQは・・・・
「酸蝕症ってめずらしいよね?」です。
<歯科助手 福永沙織>
2018年4月号
平成元年に日本歯科医師会と当時の厚生省は、「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という8020(ハチマルニイマル)運動を開始しました。20本の理由はそのぐらい歯が残っていると大体のものが食べられ、しっかり噛むことができるからです。その結果全身の栄養状態も良好になり、よく噛むことで脳が活性化され、認知症のリスクも軽減される研究成果がでています。その当時は女性の平均寿命が80歳になった時期で、さらに8020達成者の割合はわずか7%程度でした。
当時の厚生省は、8020達成者率を平成34年において50%にするという目標を掲げていました。そして今回の調査結果から、それが6年前倒しで達成されたことになります。
予想を覆す速さで目標が達成されたことは、歯科界、関係方面が推し進めた8020運動の国民への啓発活動の成果であろうと、手前味噌ながら感じざるを得ません。
私がまだ歯学部の学生であった40年ほど前は、55歳が定年であり、60歳くらいで、とりはずしの入れ歯を入れているという方は普通におられました。ところが最近は80歳代で歯が抜けても、まわりにしっかりした歯が残っているので、ブリッジを入れられる方がおられます。また60,70歳代でもこの先8020が十分達成できそうな方もたくさんおられます。30年前の開業当初では考えられなかったことです。
高齢になっても自分の歯がたくさん残っていて何でも食べられるということは、ほんとうにすばらしいことなのですが、残っているその歯は、虫歯にも歯周病にもなる可能性があり、若い方と同様に歯を削ったり、抜いたりの処置も必要となってくるのです。
ところが、高齢になると、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、心臓病など多数の全身的なリスクをお持ちの方も多くなります。その場合、外科的処置の多い歯科治療に際してはさらにリスクを伴うことになります。
いつまでも、大切な歯をいい状態で維持できるよう定期的にかかりつけの歯科医院に行き、健康寿命を延ばすためにも お口の健康を保ちましょう。
次回のQは・・・・
「口のねばつきや歯茎からの出血があって気になるけど、妊娠中は歯医者に行くのは控えたほうがいいですよね?」です。
<院長>
2018年3月号
「大人と子どもの歯磨き粉の違いは?」と聞かれた際、多くの方は、大人向けのミント味では子どもが歯磨きを嫌がるため、ぶどうやいちご味といった“甘くておいしい”イメージのある子ども向けの味で作られている点を思い浮かべられるかと思います。
しかし大人と子どもで歯磨き剤が区別されているより重要な理由は、歯磨き剤に配合されているフッ素の濃度にあります。
現在フッ素配合歯磨き剤の国内シェア率は約90%といわれています。従来日本ではフッ素濃度の上限が1,000ppm以下と定められていましたが、平成27年3月より上限が1,500ppmと改定されました。これは虫歯予防先進国といわれるスウェーデンと同基準値であり、ほとんどの方が特に意識せずとも市販の歯磨き剤を使うだけで虫歯予防の恩恵を少なからず受けているといえます。
「虫歯予防の効果が高いのであれば子どもにも使わせたい」と思われる方もいらっしゃるかと思います。しかし、現在日本では6歳未満の高濃度フッ素歯磨き剤の使用は認められていません。(※子ども用歯磨き剤のフッ素濃度上限は600ppmです。)その理由は、6歳未満の年齢では、顎の骨のなかにある形成途中の永久歯に、過剰のフッ素が継続的に取り込まれることにより、萌出後の歯に白斑(斑状歯(はんじょうし))が現れる可能性があるためです。
エナメル質が完成する6歳以降では白斑の心配がないと考えられるため、大人用の歯磨き粉で問題ないとされていますが、フッ素配合歯磨き剤の使用目安は6歳以上~15歳未満は歯ブラシに1cm程度、15歳以上は2cm程度とされています。
お子さまの健康で綺麗な歯を守るためにも、大人用歯磨き粉は手の届かない場所へ保管し、お子さまの歯磨き粉の選び方や使用量には注意して頂きたいと思います。
次回のQは・・・・
「80歳の半数以上の方は20本以上の歯が残っている?」です。
<受付 和田彩子>
2018年2月号
乳歯から永久歯への生え代わりはうまくいくのが当たり前だと思われがちですが、実は意外に油断できないことが明らかになっています。日本小児歯科学会の調査では、余分な歯が顎の中にでき、永久歯がきちんと生えるのを邪魔する「過剰歯(かじょうし)」は約30人に1人。生まれつき永久歯の数が足りない「先天性欠如歯(せんてんせいけつじょし)」のお子さんともなると約10人に1人いるというデータがあります。
どちらも先天的なもので原因は不明ですが、歯が育っていく過程で永久歯の芽が余分にできたり、できなかったり、途中で育たなくなったりして起こると考えられています。
永久歯の歯の芽(歯胚)は、お口の中にはまだ乳歯しか生えていない3歳頃には、顎の骨の中でおおよそ完成し、かなり正確な診断が可能です。
永久歯が下から生えてこない場合、乳歯は抜けすに残るので乳歯の虫歯予防がとても大切です。乳歯が早く抜けてしまったからといって、その年齢では大人の治療のようにブリッジやインプラントにすることはできません。定期的にメインテナンスを受けて大事に使っていけば、この乳歯を30歳、40歳と使い続ける事も夢ではありません。そこまでは乳歯にがんばってもらい、それから普通の永久歯の治療へもっていくことができればベストです。
お子さんの大切な永久歯の状態をなるべく早く知っておくためにも、小学校に入る前にはパノラマエックス線写真を一度撮ってもらいましょう。
ちなみにパノラマエックス線を撮影する場合の放射線量は約0.01mSvとされています。これは、私たちが宇宙や大地から受ける自然被ばく量(年間)の約200分の1、東京~ニューヨーク間を飛行機で往復する際の宇宙線からの被ばく量約0.2mSvの20分の1程度と考えると、被ばくの心配にはおよびません。
お子さんのレントゲンは、放射線量を減らして撮影しますし、防護エプロンをすればさらに被ばくを減らせるので、安心して検査へのご協力をお願いします。
次回のQは・・・・
「5歳の子供が大人用のミント味の歯磨き粉でも平気なようです。このまま親子で同じものを使い続けてもかまわないですよね?」です。
<歯科衛生士 小川綾加>
2018年1月号
お子さんが転んで歯をぶつけて「血がでている」「痛いと泣いている」という場合、保護者の方は迷いなく歯科を受診されると思いますが、そうではない場合「歯科医院に連れて行くほどのケガかな」と迷うこともあるようです。
ですが、実はこうしたケースこそ要注意です。血が出ていなくても歯の根っこ(歯根)や、歯の周りの組織(歯周組織)にダメージが及んでいることがありますし、しばらく時間が経ってから痛みが生じることもあります。痛くなくても数週間後に歯が黒っぽく変色してしまい驚かれるケースも多々あります。また歯が歯茎にめりこんでグラグラもしない場合のほうが、抜けてしまうより経過が悪くなることがあります。
また、お子さんが歯をぶつけて乳歯が抜けてしまったときに、「どうせ生え替わる乳歯だから歯科医院に行かなくてもいいかな」と考える親御さんもたまにいらっしゃるのですが、これは絶対にNGです。というのも、歯が抜けるほどのケガというのは相当な力が、歯と歯周組織にかかっています。そのため乳歯の奥で成長している永久歯の芽にダメージが及んでいることが多々あります。「乳歯が抜けた」というケガでは、そのあとに続く永久歯に数十%の確率で何らかの影響がでることが分かっているのです。
永久歯の芽である永久歯胚(しはい)は、お子さんの成長とともにだんだんと歯の形になっていきます。最初はゼリーのように柔らかく、徐々に硬くなっていくのですが、乳歯がまだ生えている時期の永久歯胚はチョークくらいの柔らかさです。ですから、ぶつけた乳歯が押し込まれて当たると簡単に変形してしまうのです。
歯根や歯周組織、あごの骨、永久歯胚といった見えない部分へのダメージはエックス線写真などを用いた専門家による検査が不可欠です。ですから、出血や痛みがない場合でも歯科医院を受診して検査を受けてもらえたらと思います。速やかに歯科医院を受診していただくとその分、治療がうまくいく可能性も高まります。小さい頃の乳歯のケガでも元気な永久歯に生え変わるまで定期的な検診をおすすめします。
次回のQは・・・・
「子供の歯の生えかわりが遅いけど、個人差のあるものだし、放っておいても大丈夫ですよね?」です。
<歯科衛生士 佐野 成美>
あけましておめでとうございます
本年も当コラムをお読みいただきありがとうございます。
引き続きご愛読賜りますようよろしくお願い申しあげます。
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