院長・スタッフのコラム

2007年12月号

酸蝕 その3 ケースレポート

酸蝕のコラムを今回で4回掲載してきましたが、実際、口の中ではどのように見えるのかとの、ご質問がありましたので、少し詳しく症例を供覧いたします。

写真は、ある患者さんの口腔内写真です。

この患者さんは、来院の5年ぐらい前から、コーラ、ジュース、スポーツドリンクなどを毎日、1.5~2ℓの飲用を続けておられました。

また、3年ぐらい前からは、胃酸過多で、胃液が逆流しやすい体質のため、嘔吐を繰り返しておられたそうです。

しかし、冷たいものが歯にしみるというような自覚症状がなかったため、歯が酸に侵され、溶けているという認識をされたことは、全くありませんでした。


酸蝕

全体に表面のエナメル質が溶けて薄くなり、角が取れて丸みを帯びています。酸によって、ステイン(ヤニ)も溶かされているため、汚れが付いていません。

中央の歯(中切歯)は、以前にプラスチックを充填されていますが、このプラスチックが歯から浮き上がったように見えます。

充填された時には、この段差はなかったはずですが、周りの歯質が溶けて下がったため生じたものです。

歯の裏側からも溶けているため、先端は非常に薄く鋭くとがっています。


酸蝕

裏面のエナメル質が全て溶けているため、エナメル質より黄色く見える象牙質が全面的に露出しています。そして、エナメル質は歯の周囲だけに薄く残っています。その薄くなったエナメル質にひびがはいり、そこから虫歯ができ始めています。(矢印部分)


酸蝕

奥歯は、咬み合わせの面が徐々に削れ、厚みのない平たい歯になっています。そのため、咬み合わせが低くなっています。(矢印部分)


いずれお話しするつもりですが、酸蝕の原因には、外因性のほかに内因性のものもあります。内因性とは体の中に由来する胃酸によるものです。

一般に酸蝕は、前の方の歯の場合は、外因性の原因によるもの、後ろの歯の場合は、内因性の原因によるものと考えられています。なぜなら、強い酸性の液体がまず当たる個所が強く溶かされるからです。

この患者さんの場合は、両方の原因で酸蝕がより加速したものと考えられます。

皆様も一度ご自分のお口の中を鏡で点検してみて下さい。上記のような歯があれば食習慣を見直してみる必要があります。

※尚、上記写真は、患者さんご本人の了解を得たのちに掲載しています。

<院長>

2007年11月号

酸蝕 その2 清涼飲料の摂取方法

今回はまず、質問をします。

Q.コーラを5種類の方法で摂取します。この中で酸蝕の危険性が一番大きいのはどれでしょうか?

  1. 口の中に溜めて飲む
  2. ちびちび飲む
  3. 一気に飲む
  4. 哺乳びんで飲む
  5. ストローで吸って飲む

*これは無糖のコーラを使って行われたスウェーデンの研究です。

<解説>

なぜ、同じコーラでも摂取方法の違いで酸蝕の危険性が大きくなるのでしょうか。

  1. 「口の中に溜めて飲む」は、飲み込むまでの時間が長いので、酸の歯に対する接触時間が延長され、歯面に与えるダメージが大きくなります。
  2. 「ちびちび飲む」は、長い時間をかけて飲むことになりますので、1の次に酸蝕の危険性が大きくなります。
  3. 「一気に飲む」は、1,2と反対に飲料の口腔内保持時間が短い摂取方法ですので、酸蝕の危険性は低くなります。
  4. 「哺乳びんで飲む」ですが、哺乳びんウ蝕という言葉を聞かれたことはありますか?哺乳びんウ蝕とは、哺乳びんに砂糖を含んだ飲料を入れて飲ませることが多かったり、飲ませた後の歯のケアをせずにそのまま寝てしまうことが多い場合にできるむし歯をいいます。同様に、清涼飲料を入れて飲んだ後、ケアをきっちりしなければ酸蝕の危険性は大きくなります。
  5. 「ストローで吸って飲む」は、ストローの先が口の奥にある場合は問題が少ないのですが、前歯の表面や裏面にストローを当てて飲む場合は、飲料が直接歯に当たるので、酸蝕の危険性が大きくなります。

5種類中、①②は酸蝕の危険性が大きくなります。この中で一番、酸蝕の危険性が大きいのは、歯に対する酸の接触時間が長い1「口の中に溜めて飲む」方法です。反対に最も危険性が低いのは、3「一気に飲む」ということになります。

また、摂取時間帯によっても危険性が異なります。就寝前に清涼飲料を摂取し、そのまま眠ると、また、摂取時間帯によっても危険性が異なります。就寝前に清涼飲料を摂取し、そのまま眠ると、就寝時の唾液分泌の低下により、酸が長時間、口腔内に残ったままになるからです。

さらに、飲料の温度も酸蝕に関係しています。酸蝕は、化学反応なので、温度が高いほど反応は早く進みます。しかし、清涼飲料は温めて飲むことは少ないので、口腔内に長く留まる事の方が、酸蝕の危険性を高くします。したがって、フルーツジュースを冷凍庫、冷蔵庫、室温で保存した場合と酸蝕の危険性についての実験では、冷凍庫に保存した場合が、 飲み込むまでの時間が長くなりやすいということで、その危険性が一番大きくなります。

参考文献 デンタルハイジーンvol 26 No.7 No.12

歯科衛生士 山田麻美

2007年10月号

酸蝕 その1 酸蝕の外因性の病因~食品由来の酸~

今回から酸蝕の原因について詳しく説明いたします。

酸蝕はさまざまな原因がありますが、まずは口の外から入ってくる酸についてです。これには、食品由来の酸が関連しています。食品由来の酸には、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、フタル酸などがあり、これらは、清涼飲料、果物、酢やアルコール類に含まれています。

清涼飲料とは「乳酸菌飲料、乳および乳製品を除く、酒成分1容量パーセント未満の飲料」と食品衛生法で定義されています。一般的には、「清涼感を与え、喉の渇きを癒すのに最も適した飲料で、甘みと酸味とフレーバー(香り)があり、アルコール飲料を除いたもの」と解釈されています。

通常、清涼飲料にはクエン酸かリン酸が含まれ、クエン酸のほうが強い酸蝕能を示します。

ここで、各種飲料のpHを示します。

種類 製品 pH
果実飲料 はちみつレモン 3.2
Hi-Cオレンジ 3.2
100%オレンジ 3.2
10%オレンジ 2.8
フレッシュジュース オレンジ 3.7
炭酸飲料 コーラ 2.5
キリンレモン 3.2
スポーツドリンク ポカリスエット 3.5
乳酸菌飲料 ヤクルト 3.6
カルピス 3.3
カルピス(4倍希釈) 3.6
乳飲料 牛乳 6.6
嗜好飲料 缶コーヒー 6.2
紅茶 5.5

*製造会社によってpHは異なります。

同じオレンジジュースでもpHが違うのは、フレッシュジュースは搾ったままのもので、果実飲料は他の成分を入れて加工してあるからです。また、10%オレンジのほうが100%オレンジよりpHが低いのは、単に10倍に薄めただけではおいしくないので、酸や糖分が加えられているからです。

スポーツドリンクは健康飲料のイメージがありますが、他のジュースと同様、pHが低く、糖分も多く含まれているので、酸蝕やむし歯の原因となります。(余談ですが、発熱時やスポーツ時の水分補給のためには、市販のままではなく、半分位の濃度に薄めるほうが吸収がいいそうです。)

pH5.5~5.7以下の食べ物や飲み物はエナメル質を溶かしますので、上記から牛乳、缶コーヒー以外の飲料は酸蝕の危険性が高いことがわかります。ただ、酸蝕の危険性が低くても、缶コーヒーのように糖分が高いものはむし歯の危険性が高くなりますので注意してください。

みなさんがよく飲む飲み物はこの中にありますか?

次回は飲料の摂取方法から、酸蝕の危険性を説明いたします。

参考文献 デンタルハイジーン Vol 26 No.7

歯科衛生士 山田麻美

2007年9月号

う蝕と酸蝕

今回は、「う蝕(虫歯)」と「酸蝕」の違いについて説明いたします。

「う蝕(虫歯)」について

う蝕は、プラーク(歯垢)の中にいる虫歯菌が、糖分(炭水化物)を栄養にして「酸」をつくり、その「酸」によって歯が溶ける病気です。

プラーク中のpHは、飲食前はほぼ中性の7です。この数字が小さいほど、酸性度が高くなります。飲食をすると虫歯菌によって酸が作られプラーク中のpHは急激に下がります。pHが5.5~5.7以下になると、歯の表面のエナメル質表層から歯の成分である「リン酸イオン」、「カルシウムイオン」が唾液中に溶け出してきます。これを脱灰といいます。このときは虫歯の穴はまだ開いていません。

飲食終了後は唾液の働きで、下がったpHはだんだんと中性へと戻っていきます。

pHが5.5~5.7以上になると溶け出ていた「リン酸イオン」「カルシウムイオン」が歯に戻り始めます。これを再石灰化といいます。 pHが元に戻る時間は、個人差はありますがだいたい40分くらいです。

飲食後下がったpHが元に戻る前に繰り返し飲食をしたり、唾液の分泌が少なくなる就寝時前に飲食をしてすぐ寝たりすると、pH が中性に戻れずに歯の成分がどんどん溶けていきます。そしてついには穴が開き、いわゆる「虫歯」ができてしまうのです。

「酸蝕」について

歯が酸によって溶けるのはもうご存知ですね。

酸蝕とは口の外から入ってきた「酸」や身体の中からの「酸(胃液)」によって歯が溶ける病気です。口の外から入ってきた酸というとピンとこないかもしれませんが、身近な例を挙げるとレモンやコーラなどがあります。私たちが普段口にしている食べ物や飲み物などにもアルカリ性、中性、酸性といったpHがあるのです。当然、酸性の食べ物や飲み物(pH5.5~5.7以下のもの)は歯の成分を溶かします。

う蝕と酸蝕の違いは、う蝕は口の中で糖から作られた酸が原因であるのに対し、酸蝕はそのままの形で入ってきた酸そのものが原因となるところです。

う蝕の場合は、プラーク中で酸が作られるので、歯が解けて穴となるのはプラークの付いている部分でのみ起こりますが、酸蝕は酸性の飲食物が口の中全体に広がりますので、溶ける範囲が広くまた浅いため気づきにくいものです。

酸蝕が起こる原因はさまざまなものがあります。次回からその原因をご紹介していきます。

歯科衛生士 正田千尋

2007年8月号

Tooth Wear 歯が減る? 溶ける?

4月に大阪大学歯学部の臨床談話会、「歯が減る、溶ける"Tooth Wear(トゥースウェア)″」に参加してきました。 "Tooth Wear″という言葉はあまり聞き慣れないと思いますが、Toothは歯、Wearは擦り減るという単語です。 欧米では、約10年前から関心が持たれていますが、日本ではまだあまり知られていません。

従来、歯科ではむし歯と歯周病が歯を失う二大疾患として考えられていましたが、今、第3の歯科疾患として、"Tooth Wear″が注目されています。

では、"Tooth Wear″とはどういう疾患なのでしょう?

簡単に言うと、むし歯や外傷以外で歯が減る、溶ける疾患です。"Tooth Wear″はその原因から、①酸蝕、②咬耗、③摩耗、④アブフラクションの4つに分類され、その総称です。

用語 定義
①酸蝕 酸蝕 酸による歯の溶解
(上の歯の裏側)
②咬耗 咬耗 歯の接触による咬み合わせ部分の擦り減り
(奥歯の咬み合わせ)
③摩耗 摩耗 歯の接触以外の機械的作用(歯みがきなど)による歯の擦り減り
(歯間ブラシの誤用)
④アブフラクション アブフラクション バイオメカニカルな荷重(ストレスによる歯ぎしりなど)による歯質の喪失

この中で①酸蝕にスポットを当ててお話をさせて頂きます。

Tooth Wearの罹患率は97%と高く、そのうち酸蝕の罹患率は25~60%と言われています。

酸蝕の原因としては、

①清涼飲料水(ジュース・コーラ、スポーツドリンク等)の過剰摂取
②健康増進のための酢やクエン酸、ワインの摂取
③拒食症、過食症などの摂食障害による嘔吐
④高齢者における胃食道逆流症(GERD)による胃液の逆流

などがあげられます。

特に近年、①や②は、罹患率増加の原因となっています。

また、レモンによる歯の漂白、酢を用いた歯みがきなどの誤った民間療法により、酸蝕が加速される場合もあります。

歯科の二大疾患のむし歯と歯周病は歯科医学の進歩に伴い、減少していくものと考えられていますが、今まで注目されていなかった"Tooth Wear″は今後、さらに罹患率は増大し、治療の対象とすべきものとなっていくでしょう。

次回から酸蝕の病態、原因、予防法等、連載していきますので、ご期待下さい。

歯科衛生士  山田麻美

2007年7月号

最近のテレビ番組から 頭痛編

最近は一般の方の病気への関心が高まり、テレビで医学番組が放送されることが多くなってきています。マスコミが医学の内容をどのように視聴者に伝えているか、正しく報道されているのか私もちょっと気になるところです。先日、朝日TV「たけしの本当は怖い家庭の医学」で頭痛の話が放送されていましたので、今回のコラムではその内容について少し触れてみたいと思います。

番組では、獨協医科大・神経内科の頭痛の専門医の先生が解説と出演者の診断をする形で進められていました。慢性頭痛の片頭痛・緊張型頭痛・群発頭痛について症例の紹介、解説がありました。しかし残念なことは、緊張型頭痛の原因が、主に首・肩のこりとされていたことです。医科の先生には、歯ぎしりも頭痛の原因の一つであるという認識はないように思われます。また国際頭痛分類の最新版にも、歯ぎしりが原因の頭痛についてのはっきりとした記載はありません。歯ぎしりによる頭痛を抱える患者さんはかなり多いと考えられますが、一般的には正しく診断されていないのが現状でしょう。

歯ぎしりは、患者さん本人が自覚することは少なく、またベッドパートナーに聞こえるほどの音のする歯ぎしりは、20~30%のため、指摘されることも少ないと言えます。歯ぎしりの習慣があることを、簡単に定量的に検査する方法は、現在まだ開発中ですが、歯科医なら口腔内を診ることによりおおむね診断は可能です。異常な歯の磨り減り、歯が欠けたり割れたりする、知覚過敏、顎の骨の瘤、顎筋の肥厚・圧痛、詰め物やかぶせの再三の脱離等がその現れです。

歯ぎしりは頭痛の原因の一つです。

歯科を受診し、適切な治療を受けることにより、今まで内科的な治療によっては改善がみられなかった頭痛も、良くなる場合があります。

ところで、なぜヒトは歯ぎしりをするのでしょうか?それにはまだ明確な答えはでていません。一応、精神的ストレスを軽減するためであろうと考えられています。現代の社会においては、ストレスは今後ますます増え続けることでしょう。よって歯ぎしりによる頭痛も増加するはずです。CT,MRIでも異常のない治りにくい慢性頭痛は、生命に関わることはありませんが、それを治療することによりQOLは確実に上がります。このような頭痛でお悩みの方は一度歯科を受診され精査を受けられることをお勧めします。

<院長>

2007年6月号

口臭治療 その17 口臭関連情報いろいろ

当院では、02年にオーラル・クロマという口臭測定機を導入しました。その後03年にこのホームページを立ち上げてから、ネット検索により口臭治療に来院される方が急増しました。非常に特徴的なことにそれらの方々は、大部分(約80%)が仮性口臭症で、この場合検査では口臭はゼロです。ご自身で口臭を気にされ、ネット検索までされて来院される方ですので、口腔衛生意識が高く、実際口の中もきれいにされている方がほとんどです。

その中には、ご自分で簡易口臭測定機をご持参される方がおられます。それはホームセンターで2~3000円で販売されている○ニ○社製のもので、口臭強度が3段階で表示されるだけの非常にいいかげんな機械です。アルコール臭やニンニク臭にも反応してしまうのに、実際の口臭ガス(VSC)には反応しないというような代物です。ですからこの機械で出た結果は絶対に信用できません。単なるオモチャと考えてください。この機械による結果からは、治療が必要な病的口臭症を見逃してしまったり、偽の口臭に悩んでしまったり混乱をきたすこととなります。

話は変わりますが、患者さんの中に「口の奥から白い物が出てくるので、これが私の口臭の原因です。」といわれる方がおられます。この「白い物」とは黄白色のチーズ様の物質で扁桃結石(膿栓)とよばれ、口蓋扁桃(口蓋垂、ノドチンコの少し奥側方)に付着しているものが、はずれて口の中を漂うことがあります。潰して臭いを嗅ぐと口臭と同じような臭いがします。私もまれに咽の奥についていることがあります。経験上、肉や魚をたくさん食べた後にできやすいように思います。以前、私自身、扁桃結石が口の中に現れ、これを口の中で潰してオーラル・クロマで測定したことがありますが、口臭測定の結果はゼロでした。つまり扁桃結石は、鼻のすぐ側では臭いますが、口の中にある状態では、認知閾値を越えるような口臭の原因にはならないといえます。

昨年から、口臭治療について連載を続けてきましたが、一旦今回にて終了とさせていただきます。ご愛読ありがとうございました。

今後も皆様に有益な情報を提供していくつもりですので、ご期待下さい。

<院長>

2007年5月号

口臭治療 その16 ニンニクと口臭

皆様のなかには本来の口臭以外に食物による口臭を気にされる方は多いと思います。しかし口臭症の分類(本文参照)には、食物による口臭は含まれていません。なぜなら食物による口臭は何もしなくても時間とともに消失する一過性のものであるので、疾患とはいえないからです。

ここで食物による口臭のなかで、最もポピュラーなニンニクによる口臭についてお話しましょう。

ニンニク独特のにおいの元は、アリシンと呼ばれる化合物です。それはニンニクの有効成分の一つであるアリイン(無臭)が、切ったり,擦ったりすることにより酵素(アリナーゼ)の働きで酸化され生成されます。アリシンは体内でさらに分解され他のアリル化合物(主にアリルメチルサルファイド)に変化し、強烈なニンニク口臭となるのです。ニンニクを食べると長時間臭うのは、アリル化合物が胃粘膜から血中に吸収され、肺でガス交換時に呼気に混じって口から出てくるからです。臭いの元が口の粘膜にしみこんでしまうからではありません。またニンニクの成分により体脂肪の分解が進み、その結果生成されたアセトンも呼気に混じっています。以前、病的口臭の90%は口腔に原因があるといいましたが、ニンニク口臭は口や胃ではなく、肺を経由した臭いであるといえます。そして、一度ニンニクを食べると完全に体外に、におい成分が排出されるのに16時間かかるといわれています。つまり日曜日の昼食なら餃子を食べても、月曜日の朝には口臭は消えているということになります。

残念ながら、一番気になるニンニク口臭の対処法については、決定的な方法はありません。口臭予防液のハイザックやクロシスにはもちろんニンニク口臭に対する効果はないのです。牛乳・チーズの飲食は、アリシンの胃からの吸収を抑えるという意味で少しは効果がありそうです。ニンニクを食べる前後にそれらを摂取するとよいでしょう。エチケットが気になる方は、食べる時間を考えましょう。

参考文献 ザ クインテッセンス Vol.18 No.8/1999 1615~1623

<院長>

2007年4月号

口臭治療 その15 口臭の身体への影響

前回、前々回のコラムでは、歯周病と口臭というテーマでお話しましたが、今回はもう少し範囲を広げて、全身との関わりについて考えます。前々回のコラムの中で、口臭物質(VSC)を硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドの3つであると説明しましたが、硫化水素と聞いて何か思い出しませんか?

2,3年前、雪の新潟の温泉地でくぼみに落ちたフリスビーを拾おうとして子供さんが硫化水素中毒で亡くなる事故が起きました。また数年前にも東北地方の温泉地帯で訓練していた自衛隊員が亡くなっています。

つまり硫化水素は致死性のガスなのです。そのようなガスが口から発生しているというのは、あまり気持ちのよいものではありません。ただし致死量は口臭の1000倍位の濃度なのですが。

またメチルメルカプタンの毒性は青酸ガスの次に強く、少量吸っただけで呼吸が停止するほどの猛毒ガスだそうです。

口臭はそれらのガスのごく薄いものですが、当然からだにも悪影響を及ぼしているはずです。

ところで発がん性や老化作用のある活性酸素は、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)という酵素により分解されるので、細胞は活性酸素から守られています。しかし、VSCはこのSODの働きを強く阻害するので、口臭物質はがんの発生や老化を促進する可能性があると考えられています。また硫化水素は試験管の中の細胞実験ではDNAを損傷することが確認されているので、口臭物質は発がん性があるだろうともいわれています。つまり単に口が臭いだけではないのです。

以上をまとめてみますと、口臭というのは、周りの人に迷惑をかけるだけでなく、その人自身の健康をも害するものであるということになります。

参考文献
日歯医学会誌:24,12-16,2005
歯医者さんの待合室 2006年10月号

<院長>

2007年3月号

口臭治療 その14 歯周病と口臭 part2

今回は前回お話した口臭ガス(揮発性硫黄化合物)についてもう少し詳しく説明いたします。

歯周病が進むと、その進行とともに揮発性硫黄化合物(硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイド:VSC)が増加します。なかでも、強烈な臭いであるメチルメルカプタンが歯周病原菌から大量に産生され、口臭はきつくなっていきます。メチルメルカプタン/硫化水素の比は歯周病重症度に比例して増加します。

本来、歯肉はいろいろな物質が組織内に入っていかないようバリアーになっています。しかしVSCは歯周ポケット内の上皮組織の透過性を亢進させ、歯周病菌の出す毒素や歯周病の原因となる起炎物質を組織の中に入りやすくします。それにより、さらに歯周病は進行します。

それだけでなく、歯周病が進むと歯周病菌のリザーバー(溜め場)である舌苔の量も増加しますので、さらに口臭はきつくなっていきます。

またVSCは歯肉のコラーゲンの合成を阻害し、大量に分解することにより歯肉がもろくなり歯周病を悪化させます。

つまり、一旦歯周病にかかると、単に口臭が発生するだけでなく、口臭物質により歯周病がさらに悪化するという悪循環が起こってしまうのです。

あなたの歯ぐきは健康ですか?

歯ぐきからの出血は歯周病のサインです。気になる症状があれば、早めの受診をお勧めいたします。


歯科衛生士 正田千尋

2007年2月号

口臭治療 その13 歯周病と口臭 part1

「舌苔と口臭part1」で舌苔が口臭の原因になることをお話しましたが、歯周病も口臭の原因になることはご存知ですか?

歯周病とは、歯の周りの歯ぐきや、歯を支える骨などが破壊される病気で、 かつては歯槽膿漏と言われていました。 歯と歯ぐきの境目(歯周ポケット)にプラークがたまり、そのままにしておくとプラークの中の細菌(歯周病原菌)が原因で歯肉が炎症を起こし赤く腫れて、ブラッシング時の出血、口臭などの症状がみられます。歯周病が進行すると歯を支えている骨が溶け、歯周ポケットの深さは増していきます。

歯周病による口臭のメカニズム

歯周ポケット内の歯周病原菌がポケット内のタンパク質(血液・滲出液や剥がれ落ちた粘膜など)を分解し、生成された含硫アミノ酸であるシステインやメチオニンから臭いの強いガス(揮発性硫黄化合物:VSC)が作られます。これらのガスが口臭の原因になります。 これらのガスには主に3種類あります。

  • 硫化水素 H2S
    硫黄の温泉のようなにおいで、我慢できないほどの臭いではありません。朝起きてすぐのときなどには、ほとんどの人にあります。このガスが主な成分である口臭は、「生理的口臭」といい、誰にでも起こる一時的なものです。
  • メチルメルカプタン CH3HS
    卵や玉ねぎのくさったような臭いで、我慢しがたい強烈な臭いです。このガスが主な口臭は「病的口臭」といい、歯周病の口臭はこれにあたります。
  • ジメチルサルファイド (CH3)2S
    上の2つのガスより悪臭が弱く、口臭の主成分となることは少ないです。

歯周病が原因の口臭の主成分は主にメチルメルカプタンですが、歯周病が進むと、歯周ポケットはどんどん深くなっていきます。そうなるとポケットの中の細菌の量も増え、メチルメルカプタンの量も増えて口臭がきつくなり、周りの人に苦痛を与える程の臭いとなります。

実は、舌苔の中にも歯周病菌が住んでいて、歯周ポケット内と同じことが起こっているのです!しかも、舌の表面積の方が全ての歯周ポケットを合わせた表面積より広いため、口臭ガスの量は舌苔からのほうが多くなります。

また、舌苔は歯周病菌のリザーバー(溜め場)になります。歯をきれいに磨いても舌に舌苔が付いていると、舌苔の中の歯周病菌が口腔内を浮遊し、また歯に付着してしまいます。 さらに歯周病が進むと舌苔が増加します。それによって口臭も強くなりますので、舌掃除も必ず行ってください。

舌の掃除方法は「舌苔と口臭part2」を参考にしてください。

参考文献
日本歯科医師会雑誌Vol158 No1 2005-4
歯医者さんの待合室2006年10月号

歯科衛生士 正田千尋

2007年1月号

2007年問題

明けましておめでとうございます

昨年は当コラムをご愛読いただきありがとうございました。本年も皆様にできる限り有益な情報を提供していけるよう努力してまいります。引き続きご愛読下さい。

さて、この2007年は団塊の世代(1947~51年生まれ)と呼ばれる約332万人の方々の大量退職が始まる年です。そして、その計50兆円に上る退職金が、経済へ広範な波及効果をもたらすことが大いに期待されています。(株)電通では、アンケート調査をもとに団塊世代の退職に関連して発生する消費の規模ならびに経済効果を推計しています。その結果、消費押し上げ規模は約7兆8000億円に達し、その内訳は下表のようになります。

団塊世代の退職による消費押し上げ効果
    金額(億円)    構成比(%)
退職準備   11,775 15,1
  趣味 6,826 8,8
  勉強・学習 2,699 3.5
  その他 2,251 2.8
退職後   68,987 84.9
  退職旅行 11,160 14.4
  外食 667 0.9
  勉強・学習 2,440 3.1
  高額商品の購入 4,040 5.2
  金融商品の購入 6,755 8.7
  不動産関連 40,924 52.6
    77,762 100.0

最初私は、この表を見て1つ疑問に思ったことがあります。なぜ医療の項目がないのでしょうか。団塊の世代の方々は企業戦士として、日本の高度経済成長を支えて来られた方々です。ちょっとした病気位では会社も休めず、身を粉にして働いてこられたことでしょう。

これからの残された半生で一番大切なのは「健康で長生きすること」だと思います。私の属している抗加齢医学会では、「P P K (ぴんぴんころり)」ということばがあります。つまり寿命まではぴんぴんと元気に生き、最期は病んだとしてもころりと死ぬことです。不動産、高額商品や金融商品の購入、旅行などの前にまずはご自分のためにお金をかけるべきです。世間ではいざなぎ景気を超えたと言われていますが、まだまだ金利も高くありません。こんな時こそご自分に投資するのが賢明ではありませんか。つまりちょっと一服して、ご自身の体のオーバーホールをされてはいかがでしょうか。例えば人間ドックやPET検査(ポジトロン断層撮影検査)で健康チェックを行い、何か病気が隠れていないか調べるのもいいでしょう。また今まで気になっていた体の不調を、この際徹底的に治療するのもいいでしょう。また全身の健康を考えるとき口腔チェックも忘れてはなりません。ここで以下の項目に目を通してください。

  • しみる歯はありませんか?
  • 穴があいたり、抜けたままの歯はありませんか?
  • 合わない入れ歯が入っていませんか?今の年齢なら骨もよい状態にあり、インプラント手術も可能です。
  • 口臭があると奥様やお孫さんにも嫌われますよ。
  • 歯周病は静かに、ゆっくり、知らないうちに進むサイレントな病気ですよ。
  • 定期的に歯石、歯垢の除去を受けていましたか?
  • 黒くなった歯や歯肉を、ホワイトニングで輝くような白い歯ときれいなピンク色の歯肉にしたいとは思いませんか?
  • ストレスからくる歯ぎしりや頭痛に悩んでおられませんか?
  • ドライマウス(口が渇く)になっていませんか?
  • 顎が痛い、がくがくするなど顎関節は大丈夫ですか?

これらの項目に心当たりのある方は、一度歯科を受診しましょう。

今後豊かな食生活を送って健康で長生きできるかどうかは、口顎の機能が深く関わっています。年をとるにつれて、人間の色々な楽しみの中で最後まで残るのは、やはり「食べる楽しみ」でしょう。

「おいしく食べて楽しく老いる」これからの人生はこうありたいものです。

<院長>

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